ワンドオブフォーチュンF
□Sweet punishment and a better crime.
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「ほら、エスト! こっちよ!」
「ちょ、ルル! 自分で歩けますから、引っ張らないでください…っ」
楽しそうに笑うルルと繋がった手が、仄かに熱を持つ。そこから伝染したように身体を駆け巡る熱すべてが、彼女の存在を求めているような感覚に襲われる。
「……エスト?」
「いえ。……なんでもありません」
エストの様子が変わったのに気づいたのか、ついに足を止めたルルが不安そうな表情でこちらを見つめてくる。
「……なんでもありませんよ。少し疲れただけです」
「なら、そこのベンチで休んでて! 何か飲み物を持ってくるわ!」
「あ、ちょっ…」
強引にエストを座らせ、慌てて駆けていくルルを見送って、エストは息をつく。
「………まったく、どこまでも落ち着きのないひとですね」
くすりと微笑を零して、視線を落として抱えていた本を開く。彼女のことを待つ時間は、もう毎朝のように繰り返しているのに、そんな時間すら愛おしいと思えるのだから、重症かもしれない。
やがて、軽やかに駆けて来る音を聞いて、エストは顔を上げた。
「エスト! あのね、これも買ってきたの!」
エストの隣に腰を落ち着けて、自分の好きな満面の笑みを浮かべて二つ買った飲み物をその間に置いたルルが、懐から何かを取り出す。
「………何ですか、それは…」
口元を引き攣らせ、思わず仰け反ったエストの眼前に、ルルはそれを突き出す。