S.Y.K
□たったひとつ、願うなら
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口の中を滑っていく苦味をやり過ごして、玄奘は悟空に促されて再び寝台の上に体を横たわらせる。
「俺はもう寝る。……早く治せよ」
そう言って部屋へと戻ろうとする悟空が、切れていた風邪薬を自分のために遅くまで作ってくれていたことを痛感して、玄奘は淡く笑んだ。
「ありがとうございます。悟空」
背中を向けた大切なひとへ、今最も伝えたい感謝の言葉を伝える。
彼は暫しその場所へ縫いとめられたように立ち止まったまま、一曲を歌えるほどの時間、なにも言わずに黙っていた。
しかし、こちらに振り返ることもなく、漸う帰ってきた返事は、実に淡々としたものだったが、どこか優しい声音で紡がれているからか、胸の奥が熱を生んだことを自覚した。
「………別に。このくらい、どうってことない」
それに、と悟空が続ける。
「お前が元気ねぇと、俺が困るからな」
子どもの世話は、基本お前の仕事だ、とそれだけ言って扉から出ていく悟空を見送って、玄奘は瞳を閉じた。