薄桜鬼
□記憶の迷走
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その秋は、いつもより涼しかった。
「へいすけっ!ちゃんばらやろうぜーっ」
「おうよっ」
同年代の少年達と、常に棒きれを振り回して遊びまわっていた平助は、型もめちゃくちゃな振り回しようだったため、ある時油断してしまったのだ。
振り回した棒きれの先端が少し尖っていて、背後にいた華奢な身体の纏う袙を、引き裂いてしまったのだ。
気付いた彼だが、そのときには既にとき遅く、彼の目には胸元の布を必死に押さえる小さな娘がいた。
「……おまえ、だいじょうぶか?」
気まずさで口が上手く開かない彼を、涙を溜めた大きな瞳が見つめる。可愛らしく着飾っていたのだろう。袙といえどそれなりに華やかな服に、髪にちりんと音を響かせる鈴をふたつほど結いつけた少女は、歌うような優しい声音で、彼に言った。
「………あしがうごかないの」
おそらく尖ったもので服を引き裂かれたので恐怖が勝ってしまい、足が竦んだのだろう。
動けないでいる小さな少女を、彼はどうしたものかと見つめていたが、
「なぁ、ちょっと手伝ってくれ」
友人に呼びかけて手伝ってもらい、しゃがみこむ少女の身体を平助が負ぶさった。