ワンドオブフォーチュンF
□If you disappeared
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いつもより足早に、だけど繋がった手はいつもより力強いエストに戸惑いながら、ルルはエストの後ろを小走りでついていく。
ようやく湖のほとりまでやってきた途端、エストは振り返り、突然ルルの体を抱き寄せて肩口に顔を寄せた。
「え、エスト……?!」
「…すみません、少しこのままでいさせてください」
懇願するような声に、ルルは黙り込む。そして、代わりに彼を安心させるかのように自然と手を彼の背へ回した。
「………夢を、見ました」
やがて、エストがぽつりと言葉を零す。それを聞き逃すまいと、ルルは意識を耳に集中する。
エストは、脳裏に焦げ付く映像から目を背けるように腕に力を込める。
「………あなたが、連れて行かれて……あなたが、あなたでなくなる夢を」
―――僕の好きなあなたが、いなくなる夢を、見た。
かつて特別な素養を持っていたがゆえに、この体を古代種のまがい物へと作り変えられた。その特別な素養を、かつて持っていた彼女もまた、狙われるのではないかと、自分は恐れている。
その一番恐れていることが、最悪なことに夢となってまで自分の目の前に突きつけられた。
もちろん、夢など所詮は偶像の塊。だが、現実でありえないというには、あまりにもリアルすぎた。