薄桜鬼
□孤独に愛されたひと
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そうして今、彼に承諾の返答を聞いて、そろそろと彼の部屋から出て、自らの部屋へ寝るために足を運んでいる。その間、考えているのはいつだって彼のことで。
何事にも手を抜かない彼に、少しでも休んで貰うには千鶴は未だに力不足だ。こういったとき、自分が自分でなかったら―――例えば、彼に歯止めをかけることの出来る、歳三であったらと、そう願わずにはいられない。
幸せというには程遠い生活を強いられても、こうして毎日笑っていられるのは、自分に対しては優しい幹部連中と何より……彼の傍にいれるという事実があるからなのに。
―――それなのに、彼のために何かをしてやるには、自分は何も手にしていない。
その事実が、千鶴の胸を突いた。
翌朝、誰よりも早く起きたつもりだったのに、赴いた先では男にしては小柄な姿が歩いているのを見つけた。
「さ、斎藤さん……昨日遅くまで起きていたのですから、もう少しお休みになられた方が…!」
「あんたとて副長の言葉を伝えるために俺の部屋に来た時刻までは確実に起きてたろう」
「わたしは家事の合間に昼寝を取れますから…っ!」
必死に説得を試みるが、彼が折れる様子はない。千鶴の胸に、ざわりと黒いものが渦巻く。
―――わたしは、どこまでも役立たず。
好きな相手ひとり、気を休めさせる時間を与えてやれない。その事実を目の前に突きつけられた気がして、千鶴はつい足を止めた。