緋色の欠片
□募りゆく願いの常動曲(ペルペトゥム・モビレ)
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「祐一先輩!」
元気な声が響き、振り返れば長い髪を揺らしてこちらへ駆けて来る少女の姿を目撃する。
「これ、ありがとうございました!」
「…いや、役に立ったのならよかった」
頬を上気させてにっこりとそう言い、こちらへ辞書を差し出した珠紀に穏やかにそう言ってのけ、佑一は辞書を受け取る。
「祐一先輩には後で何かお礼しますね!」
「別にいい。珠紀は俺の特別なんだから」
「……っ、で、でもけじめというものが…!」
言葉を探す珠紀に、佑一はふっと笑みを零す。
「……なら、ひとつだけ貰おうか」
それだけ零して珠紀の腕を掴んだ佑一は、人気のないところまでやってくると足を止める。
振り返り、ひとつ年下の恋人を抱き寄せ、顎を持ち上げて妖艶に笑む。
無防備に半開きになった唇を、食むようにみずからのそれを重ねた。
やがて、離れると同時に、顔に熱を集める可愛らしい姿を認めて、祐一はふっと笑んだ。
「―――……」
耳元に囁いた言葉に、彼女はまた顔を赤くする。
そんな姿が、どうしようもなく愛しいと思った。