薄桜鬼
□語られる詩
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「ありがとうございます。総司さんっ」
破顔した少女を夜風から守るように風が吹いてくる方向に立ち、総司は歩き出す。
見えなくなる二つの影を見送って、歳三は静かに息をついた。
「あぁ、そうか…」
呟きは、風に紛れて消え去る。
彼女の幸せは、愛しいひとと一緒にいる、その事実で満ちると思っていた。―――自分の存在は、彼女にとってそれほど大きな意味を成さないと。
だが、それは思い違いだ。別に一方的に思いを伝えることが恋慕ではない。遠くから、見つめるだけでいいというのも、また同じ意味を成す。 なら、自分は後者であろうと思った。彼女を時折励ます、兄のような存在であろうと。
愛しき者の幸せを願えない者が幸せになれるはずもない。だから、歳三はその答えに辿り着けた自分を認めながら、同時に愛らしい微笑みを向けてくる無垢な乙女を瞼の裏に移す。
「……少しでも、いい…」
一瞬でも、構わない。 ただ、彼女が自分の発句を読んで、遠く優しい記憶に思い馳せ、ひとときの夢に浸れるのなら。
―――どれだけでも、彼女のためだけにそれを作り続けられる気がした。
そして時折、千鶴の寝床に無記名で、率直な言葉を連ねた発句が届くのは、彼女と贈り主だけの、秘密である。
あとがき