薄桜鬼

□語られる詩
5ページ/7ページ

「そういえば、総司さん。先ほどの発句集、お借りしてもよいでしょうか?」


 その言葉に、歳三はぎょっとする。


「やはり持って言ったのはこいつか!」と怒号を飛ばしたくなるのを堪え、沈黙を通す。今飛び出せば、総司に「見てたんですか」と悪魔の囁きに似た問いに重ねてなじってくることは想像に難くない。―――耐えるに限る。


「珍しいね。そんなに気に入ったの?」


「はい、熱でうなされてたときに、子守唄のように読んでくれたのに、殆ど意識が朦朧としてて、よく覚えていないんです」


「…………。……だったら、なんでそんなこというわけ?」


「だって、まだ意識がはっきりしていたとき、率直だけど素直な言葉で記されてるなって。―――物凄く暖かな気持ちになったんです」


 微笑んだ千鶴に、総司は瞠目し、笑顔を物陰に潜んで見逃した歳三も、唖然とする。


「……すこしだけ、父との思い出を思い出せたんです。…あの発句を総司さんが読んでくれたおかげで」


 宝物を抱くように、胸に手を当てて真新しい記憶を思い起す少女を、総司は見つめる。


「……分かった。貸してあげる」「本当ですかっ?」


 明るくなった少女の表情を愛しげに見つめ、総司は懐にしまっていた発句集を差し出す。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ