薄桜鬼

□語られる詩
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 仕事の合間を縫って、気休めにそれを囲うとしていたのはほんの気まぐれだった。度重なる心労に、穏やかな時間で余裕を作りたかったのかもしれない。


 だが。―――ない。


「………なんで、ないんだ…?」


 呆然と呟きつつも、大体それを盗む輩など決まっている。


「―――っ、総司っ!」


 怒号一発、彼は全速力で駆け出した。


 彼の部屋の前で一度止まるが、気配はない。……こんな夜中まで、どこにいる?! 


 傍と思い当たる場所はあるが、しかしそれを肯定するとともにあまり想像したくない方に思考が回ってしまいそうで、そんなところはない、とかぶりを振った。


 そんなとき、ふと肯定の差が激しい声が響く。その声の持ち主達が誰か悟って、歳三はさりげなく身を隠す。


「ほら、僕のことなんか気にしないで寝てなよ」


「駄目です。沖…総司さんは、組長なんですから、私より御身体を大切にすべきなのに、こんな寒空を歩くとか言い出すんですから。……それに」


 総司さんは、とふいに声音を沈ませた千鶴の唇を、総司の指がふさいだ。


「……僕は、別になんともないよ。このとおり、元気だし、死に掛けてるわけじゃない」


 笑う総司をじっと見つめて、千鶴はふと瞳を潤ませる。唇にあてられた手を両手で持ち、肌を滑らせ彼の手を頬ずる。


「……今はそうだとしても…そのときが来たら、私に看病させてください」


 ―――ずっと、あなたのそばにいさせてください。


 口にしなかったが、放たれた言葉の裏に潜む少女の想いに、歳三は唇を噛む。 その言葉を聴くだけで、彼女がどれほど深く彼の人を愛しているのか知れる。


 無言の下で涙す歳三の耳朶に、沈黙していた二人の会話は突如穏やかなものへ変わった。
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