S.Y.K
□御題<白雪の聖夜>【君に贈る花】
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【玉龍&玄奘】
「君に贈る花」
「……玄奘?」
「え? あ…ごめんなさい。なんでしょう、玉龍」
人として転生した彼と同じ時代に、しかも記憶を携えたまま生まれ変われたのは天の計らいなのか。それとも輪廻が生み出した偶然か。腑に落ちないものは多々あるものの、こうして彼と同じ時間を、生まれ変わって尚送れるのは嬉しい。
生まれ変わってから、彼が自分に対する呼称は改めさせた。同年齢だというのに、可笑しな関係が築かれていると思われたら問題だったのが要因である。
「今日は、クリスマスだし、一緒に帰ろう」
「はい」
こうして生まれ変わって、前世のような釈迦如来に課せられた術から解き放たれ、かつての旅のように、多くの出会いはない。だが、同じく生まれ変わった仲間達と、かつてと違い、長く過ごせるようになったのは嬉しく思う。
「ふふ……クリスマスというのは、沢山の幸せが溢れて、とても素敵な日です」
「うん」
並んで歩きながら、玄奘は幸せそうな笑顔の零れる街を、玉龍と並んで歩く。多くの装飾品を、クリスマスプレゼントとして、最愛の人に贈る男の姿は、其処彼処に見られた。
そんな様子を、羨ましそうに見つめていた玄奘の手を、ふと玉龍が引く。何事かと彼の方を向けば、彼は一軒の店の前で足を止めていた。
「……玄奘、入ってみよう」
口数の少ない玉龍が、自分から何かを主張するのは稀だったので、玄奘は快く承諾する。その店に入って見たのは、……造花を幾つかあしらった、可愛らしい―――…。
「……髪飾り…」
「……玄奘には…これが、似合う」
手渡されたのは、懐かしい記憶を掘り起こすものだった。旅装束で、大した装飾もつけていなかった玄奘が、玉龍の機転で、咲き誇っていた、あの花。
「―――竜胆…」
遠い昔の、あの記憶が鮮明に脳裏に映し出されて、思わず玉龍を見る。彼はその反応に満足したのか、柔らかく笑んでいた。
「……懐かしいですね」
「うん。……これを見ているだけで、昨日のことのように、思い出せるよ」
「ふふ、そうですね」
ひとしきり笑い合うと、玉龍はその髪飾りを手にレジへと足を運び出す。そんな彼の後姿を見つめながら、玄奘は静かに呟いた。
「……お釈迦様…」
―――ありがとうございます。
彼を、転生の輪に戻し、再びこうして現世で出会えたのは、あなたのおかげだと。
玄奘は、今はもう逢えるはずの無い、尊き神の姿を、静かに目蓋の裏で思い起していた―――…。
+++++あとがき
玉龍のルートは切なくも暖かいですからね。最終的に旅を続ける二人の姿は、微笑ましくもあり、感動もあり。
そんな彼のルートで一番気に入っているのは、やっぱり玄奘の髪に生花を挿そうとする玉龍でした。というわけで、微糖ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。