ワンドオブフォーチュンF
□I cannot wipe the tears even if you cry.
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―――どうか、笑っていて。
………あなたが僕のことを忘れてもいいから。
闇の世界へと踏み込んで、エストは目の前から消えうせた少女の姿を求めるかのように手を伸ばす。
だが、そんなことをしても意味がない事は良くわかっていたから、エストは彷徨わせた手を力なく落として、自嘲する。
「………一体、何をやってるんだか…」
どこまでも変わり果てた今の自分の姿は、以前の自分からすれば『ありえない』ことなのに。
「………どうして、僕だったんだろう」
狂信派という狂った組織。
その一員だった両親の許に生まれた自分。
そして、彼らに注目を集められた、特別な“素質”。
それらすべて、望んだものではなく、生まれ落されたその時から、決まっていたかのように苦しみに喘ぐ日々が悠久に感じられるほどに体を弄ばれた。
それによって異物となった自身の存在は、決して何かを求めることは許されないとさえ、思っていたのに。
「………たったひとつの出会いで、ここまで変われるとは、ある意味滑稽ですね…」