下賜されし蕾達

□桜と君
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「うぅ〜ん……」


「何、唸ってんだよ」


俺は八雲の様子がいつもと違う事に気が付く。低く唸って、随分と苦しそうだ。腹痛でも起こしたのだろうか?


「桜が、咲かない」


「はぁ?」


彼女の不思議な発言に、思わず目が点になってしまった。全く心配して損したぜ。


だいたい、何を言ってやがるんだコイツは。


「──桜ってのは、その年の気候や気温で咲く時期も変わるモンじゃねぇのか? 他の植物とかもよぉ」


俺は八雲に訊ねた。普通植物ってのはそんなモンだろうと、俺は認識しているんだが……コイツは違うのか?


「この桜だけは違うのっ」


随分と目の前にあるこの桜が気に入っているのか、興奮気味に八雲は言った。


続けて彼女は俺に話す。


「この桜だけは、絶対に今日咲くっ」


絶対に今日に咲くだ?


植物にまさかそんな事が有り得るのか。いくら生きているとはいえ、何月何日に咲くとかいう決まりは無いはずだ。


だが、八雲は普段から嘘を吐くような女じゃねぇ。もしかしたら本当に今日に咲くんじゃねぇだろうか。そう思ってしまう。


「八雲〜。桜は咲いたかい?」



その時、パンサーが手を振りながら現れた。言動からして、コイツは既に桜の話を知っているらしい。


「まだ、咲かない」


「蕾は付いてるから、きっともうすぐだよ」


確かに、それぞれ枝には沢山の蕾が付いている。だが、今から満開になるなんて事が果たしてあるのだろうか。


「絶対に、今日に咲く!」


「何を騒いでいる」


『!』
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