ボロキレノベル

□くるくるまわる
1ページ/4ページ


「もう、やだ」

ベッドへうつ伏せになって、上等のシルクシーツへ顔を埋める黒の恋人は、呻くようにそう言って、すすり泣いた。

「いなくなれ、おまえなんか」

寝る場所である其処に、ぴっちりと着込んだ制服はあまりに似つかわしくなかった。
皺が寄るんじゃないか、なんて思いもしたけれど、それを口に出来る程の勇気は持ち合わせていなかった。
泣いている恋人に、何一つ掛ける言葉を見つけてやれなかった。

嗚呼、やっぱり君の謂うとおり、僕は臆病者なんだ。

そう涙した。




く る く る ま わ る





最初は、いつもの「ご機嫌ナナメ」だと思った。
日常動作と何等変わらず恋人の部屋へ入り、2人でベッドへ腰掛けて、楽しく会話をしていた矢先に、彼は突然顔を顰めた。
気紛れと謳われる猫よりも厄介な性格をしている彼だから、扱いにはいつまでたっても慣れぬ。
宥めようとすると神経を逆撫でする恐れがあったから、黙っていた。
いつものように。
すぐに収まる、すぐに微笑む、すぐに胸へ飛び込んでくると
そう思って。

けれど今日は様子が違った。
いつまでもその紫の瞳からは憤怒の色が消えないし
彼は、怒鳴るでも突っぱねるでも無く、ただそこにじっと座っていた。
じっとこちらを見ていた。

幾分かたった後にようやく聞けた彼の言葉は
「何か言う事は無いのか」
との低い声色で。

「することは無いのか」

彼は尚も問い詰めてきた。
状況すら理解できぬ此方にとって、その言葉は鋭すぎた。
何を、誰に、どうやって。
そんな頭の弱い質問をすることは許されない様な、張り詰めた空気が辺りを蹂躙する。
自らの瞳がぐらぐらと泳ぐのが、自分でもはっきり分かった。
彼の紫の瞳と、なかなか視線が交わらなかった。


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ