ボロキレノベル

□夏の終わりに
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ルルーシュは言葉少なに語った。
彼が夏の間スザクを誘わなかったのは、無論故意だったことを。
スザクは忙しいだろうから、わがまま言って付き合わせるのは悪いと思って、何も言わなかったのだと。
「お前、常に疲れた顔してるから。夏休みくらいゆっくりさせた方がいいんじゃないかってな」
「…そんなにやつれてた?」
「端から見ればな」
リヴァルやシャーリーが「スザクを誘おう」と提案した時も、上手く説き伏せてそれを阻止してしまっていた。
先程の、生徒会室での出来事だって。
「リヴァルのヤツ、スザクに余計な気苦労を掛けようとするから」
「…そうか、だから」
「ん?」
「いや、なんでもないよ」
だから、ニーナに頼ったリヴァルにお咎めはなくても、スザクに頼ったリヴァルには横槍を入れたのだ。
あの「教えてやろうか」はリヴァルへの良心が生んだ言葉ではなく、スザクのための。
ルルーシュ自らの口からそれが語られることで、ようやっとそこまで考えが至った。
ああ、ならばもしかしたら、あの言葉も。
「ルルーシュ」
「なんだ」
「来なくていい、っていうのは…その」

「『無理して俺達に付き合わなくてもいいぞ』って意味だったんだけど」


ごめん、とまた深く頭を下げる。
それが予想外のタイミングだったらしく、ルルーシュは慌ててスザクの頭を掴んで、上げさせた。
何を謝ることがあるのかと問われたので、少し気後れしたが、思うところを伝えた。
「君はそこまで考えてくれていたのに、僕は、考え無しに怒鳴ったりして…」
心底申し訳ないと思った。
彼の気遣いが胸に痛い。
「解ってくれたのならいいよ、俺だってはっきり言わなかったんだ…勘違いしたって仕方ないから」
「でもそういうのって、はっきり言う事じゃないよ」
「あー…まあ、そうかもな」
ルルーシュにしては珍しく、言葉を詰まらせていた。何だか笑いが込み上げてくる。
頬を緩ませていたこちらに気が着いたらしく、彼は軽くひとつ咳払いをした。

「じゃあお前は?」
「え」
「はっきり言ってみろよ、お前、どうしたいんだ?」
どうって、と問い返す。彼は溜息を吐いて大袈裟に肩を竦める。また呆れられた。
「これからどうしたいのかって聞いてるんだ」
「これから…」
終わってゆく夏。休みはあと10日間。
残された僅かな時間を、自分はどうしたいのか。
そんなの、決まっている。
「…僕も皆と、ううん」
一緒にいたいひとは決まっている。



「ルルーシュと、夏の終わりを過ごしたい」




「うん、俺も」
ニッと悪戯に笑んだルルーシュの顔は、至極満足気だった。
彼の納得いくような答えを出せたらしい自分。こちらまで満ち足りた気分になる。
「俺も、お前と一緒がいいよ」
そして彼の同意の言葉が、じんわりと心地よく、胸に響いてきた。
「どんなに短くたって、なんか…お前と一緒だったって事、それだけあれば、すごく充実した夏だったなって、思える気がする」
「ルルーシュ…」

そうか、君も同じなんだね。僕だけじゃないんだね。
胸の内でそう囁いて、目を細めた。


「お前を気遣って我慢していた俺を褒めろ。気の効くいい友達だってな」
「はは、本当にね」
「まずは明日、合宿明けに皆でプールでも行くか」
願ってもない提案にスザクは「うん!」と勢い良く頷く。
ルルーシュも嬉しそうに微笑んでいる。
「それでその帰り、お前は俺の部屋に泊まればいい」
「…いいの?」
「もちろん。夕飯作ってやる。風呂で背中も流してやる。お前の疲れが取れるようにな」
ぽんぽんと軽く背中を叩かれた。
触れた場所から彼の優しさが滲みこんでくるようだった。
冷房の所為か少し冷えている手が、火照った肌にはちょうど良い。
「嬉しくないのか?」
「う、嬉しい、嬉しいよ!」
「そうか、よかった」



ぬけるような空の蒼、一面に広がる黄色と緑、その中にぽつりと、彼の黒。
景色は違えど、笑顔は変わらなかった。太陽のような笑顔。
輝きだす夏の景色。


「ああ、でもなんかそれ…友達って言うか、恋人みたいだね」
「俺はそれでもいいよ」
「え?」
「…いや、何でもない」



たった10日間だけれど。
夢にまで見た夏休みが、始まろうとしていた。






【END】


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