ボロキレノベル

□夏の終わりに
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ガチャン。



「俺は外に」

電話口の声と、空気中の声とが、ぴったり重なった。
ゆっくりと開いたクラブハウスの大きな扉、そこから姿を現したのは、紛れも無く。
「外に、出て…」
ぷつりと言葉が途切れる。
携帯を耳に当てた彼、ルルーシュは、丸く見張った瞳で此方を見ていた。
道の真ん中に立ってたスザクと、クラブハウスから出てきたルルーシュが、互いに言葉を失う。


「…おまえ、なんで」
電話口と正面とで、ルルーシュの声がステレオに聞こえてくる。
スザクは少々混乱した頭で、電話口に向かって「こんばんは…」と間抜けにも呟いた。
もちろん、視線は目の前に立っているルルーシュへとやったまま。
「き、来ちゃった」
「みたいだな」
二人の間を沈黙が蹂躙する。
りーりーと虫の声。この鳴き声ってスズムシだっけコオロギだっけ。落ち着くことの出来ない脳内ではそんな的外れな推測ばかり。
今考えなければならないのは、そんなことでは無い筈なのだが。
「あの、ルルーシュ」
「どうした?」
「違うんだ、僕は…」
「何がどう、どれと違うんだよ」
「えぇと、その」
「なんだよ気持ち悪いな」
ごくりと息を飲む。

「き、君に、あんな態度を取りたかった訳じゃ、ないんだ」

あんなって?と憮然とした態度で再度問いかけてくるルルーシュ。腕を組んで、仁王立ちをして。
けれど其処には、不思議と威圧感がなかった。どちらかというと、スザクの言葉をしっかり受け止めてくれようとしているような、穏やかな印象を受ける。
彼はその菫色をした瞳を確り開いて、じっと此方を見つめている。次の言葉を待っている。
だからこそ、スザクも意を決して言葉を紡ぎだした。
「具合が悪い訳でもない、怒ってた訳でもないんだ……ただ、そう、嫌だったんだ。来なくていいって言われたのが」
「どうして?自分だけ除け者にされたとでも思ったか?来たいなら来たいって言えばよかったのに」
「違う、多分そうじゃない」
「じゃあ何」
上手く言葉に出来ない想い。考えていたことをそのまま口にしたなら、解って貰えるのだろうか。
ルルーシュは待っている。自分が吐き出す言葉ひとつひとつを、じっと静かに待ってくれている。
言わなければ。つまらない意地を張っている場合ではない。
「ルルーシュは」
「うん」
見詰めてくる濃紫の瞳。


「僕と一緒の夏休み、嫌なのかなって」


他の友達とは遊びに行くのに。
僕だけは誘ってくれないし、はじくし。
誘おうとしても君には予定が入ってしまうし。
僕は前みたいに、君と一緒にいたかったのに。

「ちょっと寂しくなった、だけ」


単純で下らない、子供っぽい拗ね方。
こんなことを言ったら呆れられてしまうに違いないと、改めてルルーシュの方を見遣った。
彼は肩を竦めて、苦笑いを浮かべていた。
「それで苛々して、俺のこと怒鳴りつけてきたのか。不機嫌になってやたらと電話切りたがったり」
「ごめん…本当、ごめんね」
「いいよ別に、変なヤツだなって思っただけだ」
「へ、変?」
「うん」
くすりと、漆黒の髪を揺らす友人は美しく微笑んだ。何だか、どこか嬉しそうに目を細めながら。
呆れられたのとはまた違うらしい。何にせよ、こんな気持ちをあっさり受け入れて貰えて、少し拍子抜けした。


「…お前もな、そういう事はもう少し早く言って欲しかったよ」
当のルルーシュは、今度は眉根を寄せて頭を掻いた。これは明らかに呆れている表情だ。
スザクはそんな彼に対して謝るしか術を持たない。慌ててまた「ごめん」と頭を下げる。
「いいって。違うんだ、俺ももう少しお前のこと理解してやるべきだったのかも知れない…悪かったな」
「ルルーシュが謝ることなんか無いよ!」
「いや謝らせてくれ。お前のことを思って行動したつもりだったのが、裏目に出てたんだから」
「僕の、ことを?」


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