ボロキレノベル

□夏の終わりに
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「あ、ごめん、違う…」
口から手を外す。静寂を破ろうと言葉を紡ぐも、取りとめのない否定の言葉しか漏れてこなかった。
何が違うんだ、何に対して謝っているんだ、頭の中のもう1人の自分がそう問い詰めてきているような気がした。
「僕は、そう、課題もう終わっちゃってるし、今日は…軍務が、あるから」
だから行けないんだと、そう言おうとしたんだ。
途切れ途切れにそう告げて、引き攣る喉元を押さえた。

伝わった、かな。

どくどくとうるさく暴れまわる心臓。




「…だよな、お前忙しいもんな。悪かったな変な事言って」
いつもと同じ様に、落ち着いた声色で、ルルーシュはそれだけ言った。やはり彼の顔には苦笑いが貼りついている。
その嫌に冷静な態度が、何故だかまた胸を抉ってくる心地であった。
なんだよ、なんだよなんだよ。
何に対してなのか、頭の中には不平不満が飛び交う。
「…僕もう帰るから」
デスク上の学生鞄を掻っ攫う様に鷲掴んで、その勢いのままで入口へと歩んでいった。
入口付近で屯していたシャーリーらが、さっと素早く道を開ける。
その腫れ物扱いがまた。

「また明日な」
普段と何等変わらない、ルルーシュのそんな挨拶を背に受けながら、生徒会室を後にした。




◇ ◇ ◇ ◇




今日も今日とて、特派ではランスロットの起動実験が行われている。
お馴染みのパイロットスーツに身を包んだスザクは、機体脇の荷物の上に座っていた。
見上げる先の白い巨人。あの男と戦う術。
それは春夏秋冬変わらずこうして佇んでいる。夏だからどうとかいう事は、このKMFには関係の無い話だ。
いいな、なんてらしくもなく考えてしまう。

(…何やってるんだろ僕、怒鳴ったりして)
ただ、何故か先程の会話には露ほどの、何と言うか、不快感を覚えた。
ルルーシュの部屋で開かれる「勉強合宿」なるものに参加できないから拗ねているのだろうか、自分は。
(いや、だって別に、本当に、僕は課題終わってるから行く必要ないし……軍務も、一応あるし)
それは理解している。だから自分の不参加に関して拗ねているとか、そんな考えは捨てることが出来る。
だったら何だというのだろう、このもやもやしたものは。
破裂するほどに膨れ上がった嫌な気持ちは、一体。

(…ルルーシュ困ってた、絶対)
組んだ手をぎゅっと握り締めて、俯く。
(困らせちゃった…)




「スザクくん、はいこれ」
「え?」
上司のセシルが不意に何かの箱を差し出してきた。
彼女が徐にその蓋を開ける。中に綺麗に並ぶのはプチタルトの様なものだった。
これはなんだろうと、セシルの顔を見上げる。彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「この間少しだけ夏季休暇を頂いたから、旅行に行ってきたの。おみやげよ、食べて」
「ありがとうございます…」
リンゴタルト、と書かれたそれをひとつ手に取り、袋を破って一口含む。爽やかな酸味が咥内へ広がった。
リンゴが美味しいのってナガノだったっけ、と何となしに考えながらタルトへ齧り付く。
「美味しい?」
「はい」
親指に残ったタルト生地のかすを舐め取る。
包みのゴミはセシルが引取ってくれた。

「…あの、夏休み」
「なあに?」
「夏休み、楽しかったですか」
ふとした問いかけに、セシルは「もちろん」と嬉しそうに微笑んだ。
視察と託けてエリア11内を回ったり、本国へ帰ったり、充実した2週間だったわ、と粗方を語ってくれた。
…下手な質問をしたと思った。こんなことを聞いては、返って来る言葉などあれしかないのだ。
「スザクくんはどうだった?」
ほら見たことか。先程の生徒会室での流れと一緒だ。否、その流れの発端を産んでしまったのは間違いなく自分なのだけれど。
自分は休暇申請をしていないから長期休暇はありませんでした。苦笑いを浮かべてその旨を伝える。
しかし尚もセシルは微笑んだまま、今度は床へしゃがみ込んで、スザクと目線を合わせてきた。
「でも、友達と遊びに行ったりはしたんでしょう」
「いえ全く」
「ほんとに全然?」
「はい。自分は軍務をこなしている方が性分に合っているので」
そう、と呟いたセシルの声はどこか寂しげだった。それを目にして、ああこういう事はユフィには言わないでおこうと、そう静かに心に決めた。
きっと彼女も同じ顔をする。高校生らしい生活を、と望んでくれる彼女はセシル以上にこの状況を憂うだろう。気を遣って軍務を減らしてくれたりも、してしまうだろう。
それは、嬉しくない。



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