ボロキレノベル

□夏の終わりに
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8月23日。
あと1週間で天国のような夏季長期休暇も終わる。
冷房の利いた涼しい部屋で課題を進めていたルルーシュは、ふとベッドの方を振り返った。
そこに横たわっているのは、黄緑の長髪が眩しい、例の同居人。
「C.C.」
呼ぶと、彼女は気だるい様子で寝返りを打ち、こちらに視線だけ向けてきた。
何だ煩い、とでも言いた気な憮然とした瞳に向かって「今日もだから」と一言告げる。
途端、拘束着の彼女はがばりと起き上がる。
次に聞こえたのは溜息だ。

「まったく、私は可哀想な女だな」




夏の終わりに
complaint




「…はぁ?」
唐突な物言いに、無論部屋の主のルルーシュは眉根を寄せる。
気が長い方ではない彼にとって、C.C.の語り口調はいちいち癇に障った。
「文句があるなら言ってみろ」
負けじとこちらも喧嘩腰でそう叩き付けるのだが、C.C.に同様のいろは全く見られなかった。
寧ろ更に溜息を深くして、両手を挙げて「あーあ」なんて呆れられる。一体なんだと言うのだろう。

「お前が客を呼ぶたびにこうして部屋から追い出されて、慣れぬベッドで寂しく夜を明かす。こんなに虐げられている女がこの世にあと何人いるのやら」

どうやら「今日も」部屋を追い出されることに不満を感じているらしい。
しかしそれならばルルーシュにも言いたい事がある。彼はいよいよ椅子から立ち上がり、ベッドの方へ歩み寄ってきた。
見下ろす先の黄金の瞳は、不敵に輝いている。
「忘れているようだから思い出させてやるがな…」
「ふうん、それは光栄だな」
「此処は俺の部屋だ。これは俺のベッド。ついでにこれは俺の金で買ったピザ!どれだけ図々しいんだお前は!」
ベッドの上に広げられたピザハットの箱を指差し、いつものごとく声を荒げるルルーシュ。
しかしチーズ君を抱えてそっぽを向くC.C.には「ふん、ホモの童貞が偉そうに」なんて一蹴されていしまった。
な、なんという。

「きっ貴様…!!」
「ルルーシュ、お前はここ1カ月で何度私を部屋から追い出していると思っているんだ」
「そんなこといちいち覚えているわけがないだろう!」
怒り心頭である。確かに「ホモの童貞」で不快感を感じない人間はかなり珍しいだろうが。
対してやはりC.C.は随分と冷静で、ルルーシュの怒号にもこれといった怯みすら見せなかった。
彼女は恐らく、その態度がさらにルルーシュの怒りを加速させていることにも気がついている。だからこそのこの反応なのだろう。
追い討ちを掛けるかのごとく、彼女は笑みを深くしてズバリと言い放った。

「ほぼ毎日あいつとこの部屋でセックスをしているだろう、私はその度に他へ移ってやっているんだぞ。今日の客とやらもどうせあいつだろう?」


う、と小さな呻き声だけ上げて、それきりルルーシュは何も言わなくなる。
徐々に赤く染まってくる頬。食い縛った歯が彼の恥辱感を良く表している。
それを見るのがまた快感…であるのかないのか、C.C.は酷く楽しげだった。
「ものは相談だ。私に新しい部屋を与えろ。そうすれば大人しくしていてやる」
「ふざけるな、誰がお前みたいな女にわざわざ…っ」
歯切れが悪くなっている。
目も合わせず、拳を握り締めて。
ふふ、と彼女の唇から笑みが零れた。
「そんな可愛い反応をいちいちしていたら、あいつ以外の男にも食われてしまうぞ」
「下劣な事を言うな!だからお前は嫌われるんだ!」
「酷いな、お前は私が嫌いなのか?共犯者なのに?」
「それとこれとは関係ない!」

C.C.がぐいとルルーシュの細腕を引っ張った。
弾みでベッドへ倒れこむルルーシュ。その身体の下には、白い拘束着。
ルルーシュに組み敷かれる形となったC.C.は、やはり可笑しそうに笑う。
「嫌いだけど押し倒すのか?」
「ば、バカを言うな!これはお前が…っ」
「別に私は、悪い気はしないぞ」
「え…」


「私がお前を大人にしてやるのも、悪くはないと言っている」


頭上の、男にしては線の細い身体が、大きく震えたのを、C.C.は見逃さなかった。
余裕たっぷりの金の瞳と、ぐらぐらと揺れる紫の瞳。視線が絡み合う。
すぐそこにある、Yシャツのボタンに手をかけて、ひとつひとつそれを外してゆく。


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