ボロキレノベル

□夏の終わりに
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(そっか…ふうん、そう)
リヴァルらの話をぼんやりと聞きながら、スザクはただ、ただそれだけの感想を持った。
遊びに行ったんだ。繁華街とかプールとか、会長の家とか。ああそう。それで?
そんな冷ややかな感想しか持てなかった。何故だろうとか、別にそういった疑問も無かった。そういうものだろうと思った。
ただ一つ、そう一つだけはっきり言えることは、

――不快だ

それだけ。


「それで、スザクは?」
突然名を呼ばれた。今まで聞き手に回っていたスザクは、ビクンと大きく肩を震わせて、ミレイを振り返る。
呼んだほうのミレイも、嫌に驚いているスザクの様子に不思議そうな顔をしていた。
「あーいえ、スザクはルルーシュと何処に行ったのかなってね」
「僕、ですか」
そうだそうだ、とリヴァルも楽しげに頷く。
「お前のことだから、色んなとこ行ってんだろうけどさ。何処が一番面白かった?ルルーシュのリアクションとか聞きてぇなぁ」
「え、っと、どうしてそんなこと僕に聞くんだ…?」
「どうしてって」
スザクと同じ様に、リヴァルまでもが首を傾げてしまう。
そして当然だろうとでも言いたげに、リヴァルは豪快に笑った。

「ルルーシュと一番仲良いの、スザクじゃんか」




空気の抜ける様な音と共に、生徒会室の自動ドアが開く。
少し疲れたような顔をしてルルーシュが入ってきた。部屋の片付けとやらが終わったのだろう。
「お待たせ。移動するならしてしまおう、もう入れるから」
そんな声にわっと一同が盛り上がった。
皆さっさと荷物を纏めて帰り仕度を整える。

それをただぼんやりと見詰めるだけのスザク。
「ああ、そうだスザク」
何かを思い出したようなルルーシュに呼ばれ、ゆっくりとそちらへ視線をやった。
彼は、盛り上がっているリヴァル達の合間を縫うようにして、スザクの前まで歩み寄ってくる。
楽しみだなー、なんて笑いあっている一同を背に、ルルーシュは苦笑い。
「……おい、顔が疲れてる」
「え、あぁ…そうかな」
別に困っている訳でもないのに、困ったな、なんてその場しのぎに笑った。
笑顔がぎこちなくなる。口角を吊り上げようとしても不自然に引き攣るし。
なんだろう。
今、彼に向けて笑いかけたくない。
もやもやしてる。
嫌な気持ちが膨れ上がってくる。

「保健室行ってきた方がいいんじゃないか?ああでも夏休みだから校医いないか…」
「別に、具合が悪いとかじゃないから…心配しないで」
無理矢理笑ってから、それで何の用なのかと、できる限り穏やかな声色で問いかけた。
目前の友人は何処か困ったような顔をして、一言零す。
「今日、皆が俺の部屋に来るけど…」
「うん」


「お前は来なくていいから」


無理に作っていた笑顔、その口元がひくりと引き攣った。
あ、もうだめだ。
瞬間的にそう思った。
途端。

「行くわけないだろ!」


口の中で怒声が爆発した。
それは生徒会室に響き渡り、楽しげに笑いあっていたリヴァル達の唇を結ばせるには、充分すぎる声量だった。
生徒会室の空気はまたがらりと変わる。今度は、嫌な静寂に包まれた。
その静けさが、じわりじわりと、スザクへ自我を取り戻させていった。
(…え)
今のは本当に自分が出した声なのか。
それすらも俄かには信じられず、スザクは目を瞠った。そしてゆっくり、しかし強く確実に、自分の口を片手で覆う。
そんなことをしても、言ってしまったことを口へ戻すことなんて出来はしないのだけれど。最早それは条件反射だ。


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