ボロキレノベル

□KIDS
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要件を言い終えて一息吐いたルルーシュがスザクを見遣る。
「成程、それは頷けるし良い案だね…けど」
目の前の居候は、なんだか難しそうに視線を落としていた。言葉とは裏腹にあまり乗り気では無い様子。
予想外の反応に、ルルーシュも少々顔を歪めた。
「どうした?」
小首を傾げてそう問えば、彼は苦笑いを浮かべる。
「…いや、他にちょっと大きなお金が要る用事があってさ」
スザクは言い難そうにそう呟いた。
「別にそれは急ぎでないからいいんだけど、なるべく早くって思ってたもんだから」
一方のルルーシュも複雑な顔をする。
「…何言ってるんだよ、お前が引っ越し費用の一端を出す必要なんて無いんだぞ」
絶対出す気だ。それが彼の言葉から滲んでいる。黙っておけばそれでいいのに、このお人好しめ…と眉間に縦皺を刻んでしまう。

しかし、スザクは微笑む。
「でも、新居には僕も一緒に住んでいいんでしょ」
「そりゃ、もちろん…」
「じゃあ決まりだね!」
小指を取られ、指切りをさせられる。
流されてしまった。
「なんか悪いな…気を遣わせて」
とんでもない、とまた首を振るスザク。
「僕もルルーシュの為になら何だってしてあげたいしね。任せてよ」
ガバリと胸の中に収められてしまった。鼻を掠める、高そうな香水の匂い。
「『3人住まい』ってなんかいい響き。夫婦と娘みたい」
「…馬鹿かお前」
呆れ顔のルルーシュ。
手が濡れている為に肘でスザクの身体を押し返し、再びシンクへ向かった。
「そういう訳だから、引越し費用の為にバイト時間を増やしたんだが…ファミレスの時給と父様の会社のお小遣いじゃ、貯まるまでにどれだけ掛かるか」
カチャカチャと食器を洗いながら、抑揚無く呟く。スザクも「確かにあの安時給じゃね」と少々失礼な相槌を打った。
実際にそれは深刻な悩みであった。
出来ることならばすぐにでも引越して、ナナリーにとってより便利な生活を始めたい。
だのにその願いに金銭面が追いついてこない。生活費を捻出するのにも中々苦労しているというのに。
やはり無謀なのだろうか。



「待って、いい考えがある」
独り思い悩んでいると、背後からスザクの明るい声が響いてきた。
振り向きもせず、どうせ下らない話だろうと決め込んで、ルルーシュはスポンジで皿を擦る。
スザクはそれに構うことも無く続けた。
「今ガウェインで新規バイト募集してるんだ。時給高いからうちで働けばいい」
ほら見たことかと内心呆れ返って、ランペルージ家の主婦は肩を竦めた。
「俺がそれを快諾すると思ったのか」
「え、だめ?」

確かにスザクと出会った頃は、シュナイゼルに乗せられてちょくちょく小遣い稼ぎに接客をしていたが、それは飽く迄『ヘルプ』であって『ゲスト』であった。
あの店に席を置いて正式に働くという事はつまり、店内のボードに、恥ずかしい写真と共に名前(源氏名というやつだ)を記載されるということで。
金のために、以前よりも更に真剣に嘘の愛を客に囁かなければならないのだ。愛してもいない相手のために。
あんなに恥ずかしい台詞を吐くのは、スザクにだけで充分だ。

それに、ガウェインで働いたら――


「絶対やりたくない…」
「なに独りでブツブツ言ってるの」
一方のスザクは、実に不思議そうな顔でそんな同居人を覗き込んでくる。ルルーシュは仕切り直すかの如くひとつ咳払いをした。
「…お生憎様、俺はホストなんてごめんだ」
ホスト?と復唱するスザク。一瞬置いてから、彼は高らかに笑い声を上げた。

「違う違う、募集してるのはホストじゃなくてフロアバーテンのアシスタント。ボーイみたいなものだよ」
何だか可笑しそうに笑いながら、スザクはそんなことを言ってきた。彼は更に続ける。
「店の入口の近くにカウンターがあるだろ?あそこでお客様に頼まれたお酒を出すだけ」
「ふうん、未成年に酒仕事をやれと」
「勿論作るのはプロのバーテンダーだし、バイトはちょっと微笑んで『どうぞ』ってグラス出すだけだから」
「で、時給は」
「聞いて驚け、なんと9千円」
「きゅっ…!!」
反応してしまった。
確かに人気ホストの1万5千円プラス出来高には到底及ばないが、酒を出すだけで時給9千円なんて、美味しいことこの上ないではないか。というか、単純計算でファミレスバイトの9倍近い。
しかも最早顔なじみになっている店であるから、危険な仕事では無い筈。否、危険な仕事などこのナンバー2ホストが許さないはずだ。
ルルーシュの眼の色が変わる。スザクはもちろんそれを見逃さなかった。


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