ボロキレノベル

□KIDS
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くす、と笑い声。
そのままスザクの胸へ、頭を抱き込まれてしまった。
鼻腔を香水の芳香がくすぐる。
「愛してるよルルーシュ」
そして、身体の芯を燻らせる様な、甘く低い囁き。
「僕には君だけだ」
ぴくんと背筋が伸びた。
思わずその身体を突っぱねてしまう。
「照れた?」
「うるさい」
乱れた髪を手櫛で梳く。

「…ありがとう」
色々な意味で以って。
「どういたしまして」
居候ははにかむ。
それが、ルルーシュの心中を穏やかにした。
機嫌はすっかり直ってしまった。
現金な奴だと、自分でも思う。



「それで、何か用があったんじゃないのか?」
スザクのパーカーを綺麗にたたみながら、ルルーシュはそう声を掛ける。
部屋に入ってきたからには、それ相応の用事があったはずだ。
彼は首を横へ振る。
「ちょっと相談があったんだけど、また今度でいいや」
「そうか。他には?」
「他…」
見上げる先のスザクは、しばし考え込んでから「あっ」なんて眼を丸く瞠った。
「そうそう、夕飯できたから呼びに来たんだ」
「夕飯…!?」
言われて、慌てて机上の置時計を見遣る。時刻は既に7時を回っていた。
うわ、とルルーシュの顔が引き攣っていく。
「悪い、寝てたっ」
「仕方ないよ、最近生徒会もバイトも忙しいみたいだし…疲れてたんでしょう?」
「だが俺はこの家の家事担当者であって」
いいから、なんて肩を叩かれていまい、ルルーシュは言葉を飲み込んだ。
しかし。
ふとあることに思い当たり、改めてスザクの顔を覗き込んだ。
「…出前でも取ったのか」
「え?」
「だって、夕飯の準備できてるんだろ?」
「あぁ…ま、ちょっと来て見てよ」
なんだか嬉しそうに微笑むスザク。
その彼に腕を引かれ、ルルーシュは自室を後にし、妹の待つリビングへと向かった。



◇ ◇ ◇ ◇



父の会社ブリタニア・コンピューターの開発部へ勤める傍ら、本業である学生生活、そしてファミレスのウェイターまでやってのける、ルルーシュ・ランペルージ。
昼間は病弱な優等生として学校へ通う一方、夜は高級ホストクラブ『ガウェイン』で人気ホスト『アーサー』として笑顔を振りまく、枢木スザク。

出会った頃は互いが互いを毛嫌いしていた彼らは、困難を乗り越え、晴れて支えあう存在となった。
個性が強すぎる彼らだが、それによって反発しあうことも無く、穏やかな関係を保っている。
そんな2人が同居をはじめてから、特にこれと言った出来事も無いまま月日は流れ、7月。
夏である。
夏休み直前、憂鬱な期末テスト前である。
にも拘らず、一家の家計を担うルルーシュは、相変わらずバイトに勤しんでいた。
僅かな合間を縫うようにして勉強するも、疲労からかすぐに居眠りをしてしまう。追い討ちを掛ける様に生徒会活動も多忙を極めているし、細い身体は既に悲鳴を上げていた。
だのに泣き言を吐かないのは流石というか。

それに、大黒柱ルルーシュには、今、ひとつの野望があった。
それは金が要る野望だ。
だからバイトも其処まで苦ではない。
疲れているだけなのだ。




「…あれ?」
ダイニングテーブルへ並べられていたのは、何の変哲も無い和食だった。
白米。味噌汁。酢の物。焼き魚。
しかしだからこそ、ルルーシュにはその光景が信じられなかったのだ。
出前じゃない、と。

「な、なんだこれは」
「へへん」
隣で居候の枢木スザクが胸を張っている。ということは。
「お兄様、これスザクさんが作ってくださったんですよ」
椅子に腰掛けるナナリーが、実に明るい声でそう言い放ったものだから、ルルーシュは「はぁ!?」と素っ頓狂な声を上げてしまうのだった。
なんということだろう。これをあのスザクが作っただなんて。
以前は買い弁と外食のみで食生活をクリアしてきていたあの彼が。朝御飯を用意するといってもベロベロの卵焼きと炭化した魚しか出せなかったあの彼が。
これは、感動だ。
「すごいぞスザク…どうしたんだ一体、料理の神が舞い降りてきたのか」
惜しみない賞賛の言葉を掛けてくるルルーシュが意外だったのか、スザクは照れくさそうに頭を掻いた。
褒めて欲しそうに踏ん反り返っていたのは彼自身だというのに。そのギャップに苦笑いを浮かべるルルーシュ。
「実はシュナイゼルさんの手解きを受けて、密かに練習してたんだ」
「シュナイゼルの…」
何かと世話を焼いてくれる義兄シュナイゼルに、またひとつ借りが出来てしまった。
それにしても、本当になんでもできる人間なのだなと、改めて義兄へ呆れ交じりの敬意を示すルルーシュ。


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