ボロキレノベル

□KIDS
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「やあルルーシュ!」

制服姿の青年を、此処まで熱烈に歓迎する『夜の店』が、他にあるだろうか。
少なくともルルーシュ・ランペルージの常識の範囲には無い。この店はしかし、自分が足を踏み入れた途端に活気付いてしまう。
自分を溺愛する者が2人も居るのだから―上に、その2人が店の権力者であるから、致し方の無い話やもしれない。
「お夜食の差し入れだね、いつもありがとう」
淡い青のスーツを着た金髪の美青年―シュナイゼルは、そう言いながら微笑む。ルルーシュから紙袋を受け取った彼の笑顔は、いよいよ輝いていった。
橙の灯を店内へ落とすシャンデリアの下、場に合わぬ格好の男子高校生は肩を竦める。
「あいつは?」
聞けば、シュナイゼルはあらぬ方向を指差した。その先のソファへ、目的の人物は腰掛けていた。艶美なドレスを纏う大人の女性の隣に。



「これ新調したドレスですのよ、どうかしらアーサー」
「とてもお美しいですが、やはり貴女自身の美貌には劣ってしまいますね」
「いやですわ、もう」
「そうやって照れる姿は、まるで少女の様で…初々しくて、食べてしまいたくなるな」
「あ、アーサー…」

ドン!と勢いよくガラステーブルへ紙袋を置く。目的の人間と女性客が眼を丸くする。
「…お仕事ご苦労だな」
ルルーシュは、その男、アーサーへ微笑みかけた。少々ひきつり気味の笑顔で。アーサーも口元をヒクリと動かす。
「る、ルルーシュ…」
「元気そうで何よりだ。じゃ」
踵を返して出入り口に向かえば、高そうな黒のスーツを纏うアーサーが必死の形相で追ってくる。
店内の他の客の間から、どうしたのだろうと不思議がる囁きが零れる。
「ちょ、待って!怒らないでよ、仕方ないだろ仕事なんだからっ」
他の客に聞こえぬよう、ひそひそと主張してくる彼。それがまた、少々癪に障った。
仕事。そう仕事なのだ。そんなことは百も承知であるし今更責める気は無い。そう割り切っているつもりなのに。なのにやっぱり、腹が立つものは腹が立つ。
「それにしては随分とお楽しみだったようだが」
「ルルーシュってば」

「黙れ馬鹿ホスト!!」

シュナイゼルの、実に楽しげな笑い声が響いてきた。
ホストクラブ『ガウェイン』の夜は、今日も今日とて華やか也――





K I D S






「ルルーシュ」



戸惑いがちに肩を揺すられた。
重い瞼を押し上げると、其処にはピントが合わずぼやける数式。
一瞬置いて、自分は机に広げたノートの上へ突っ伏しているのだと気が付いた。
(そうだ、課題…)
学校から帰宅して、宿題を終わらせようと、自室のデスクへ向かった所までは覚えている。
「ルルーシュ起きて」
そこでまた自分を呼ぶ声。
むくりと上半身を起こすと、肩からパーカーが滑り落ちた。深い緑のそれは、ルルーシュの私服ではない。これは。

「スザク…」

眼をこすりつつ、自分を揺すり起こした居候を見遣る。
部屋はすっかり暗くなっていた。先ほどまで窓から差し込んでいた夕日も何処かへ消え失せている。
照明はデスクのスタンドライトだけという薄闇の中で、スザクは苦く笑った。
「温度設定低すぎ。風邪引くよ」
言われてみれば、辺りは肌寒かった。
夏も本番といったこの時期、ルルーシュの部屋の冷房は何故か24℃に設定してあった。
リモコンが手元に置いてあったから、恐らく寝ているうちにボタンを押してしまったのだろう。
確かにこれでは風邪を引いてしまうし、電気代も喰う。一家の家事担当者としては、それを避けたい気持ちで一杯だった。

「ありが、」
礼を言いかけて口を噤む。
いけない。自分と彼は今、喧嘩中なのだ。とは言え、ルルーシュが一方的に仕掛けている感が否めなかったが。
「何、まだ昨日の夜のこと怒ってるの…?」
ムスと顔を歪めたルルーシュを前に、スザクも肩を竦めてしまう。
「あれが僕の仕事で、君もそれを承知でいるはずだ」
「そんなの解ってる」
「じゃあ許して欲しいな…ルルーシュに冷たくされると、落ち込む」
座っていたために、スザクを見上げる格好になる。こちらを見下ろす彼は、寂しそうに笑った。罪悪感。
「…じゃあ、言ったら許す」
ルルーシュなりに折れてみた。立ったままの彼は「ん?」なんて柔らかく首を傾げる。
それを受け、少しばかり躊躇してから
「愛してるって言ったら、許す」
と呟いた。



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