ボロキレノベル

□となりじゃない
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「変な彼女。嫉妬深すぎじゃね?」
彼の眼が丸くなった。
それは一瞬の出来事だったけれど、見逃すはずがなかった。
何処か悲しげな、何かを納得したような、目の前の紫玉を。
「え、オレ何か失言…」
「いや違う。お前の言う通りだと思っていただけだ」
「そう…?」
そんな訳が無い。
それなら彼は笑うはずだ。
伊達に友達付き合いをしている訳ではないのだから、それくらいは解る。
解るけれど。
なぜか、それ以上踏み込んではいけないような気がした。
これも長い友達付き合いで培われた勘なのだろうか。
だから、苦笑いを向けておいた。
彼もぎこちなく笑う。


「…まぁ、その彼女と何かあったら相談しなよ。オレお前よりは経験豊富だぜ」
空になったカップを放る。
それはカコンと軽い音を立てて、ゴミ箱へ落下した。
彼もそれを真似たのか、慎重に狙いを定めてから同じものを投げた。
辛くもインだった。
入った、と間の抜けた声を上げた彼が、年齢相応の少年に見えた。

「オレさ…ルルーシュの親友だって思ってんだかんな」
暗くなってきた空を見ながら、一言。
端から聞いていれば―否、普段の自分なら―「クサイ」と煙たがりそうな台詞を。
しかしそれを嘲るでも無く、彼は真直ぐにこちらを見て話を聞いてくれていた。
「親友?」
「そう。本当は一番の友達だって言いたいけど…そのポジションにはアイツがいるからダメだ」
「アイツって」
「スザク」
彼の肩が小さく震えた。
不思議に思ったけれど、構わず続けた。
「アイツ空気読むのとか下手じゃん、だから、アイツにできない相談はオレにしてくれていいからね」
「なんだよ、急に…」
「言いたくなっただけ」



風も冷えてきた。
そろそろ帰ろうと提案すると、彼も頷いて立ち上がった。
バイクを拾う為に駐車場への並木道を行く。

キーを刺してエンジンを掛け。
いつも通り彼にヘルメットを投げ、サイドへと招いた。
当たり前の様に其処へ座って本を広げ始めた彼に
「今日、勉強ありがとな」
と声を掛ける。
返ってきたのは「ん」なんて淡白な声だったけれど。
想像していたことだ。
というか、彼から温かな言葉が返って来る方が驚きである。


だがしかし、その驚きは、一瞬後に、彼自身によってもたらされた。
重そうに見えた唇が、言葉を紡いだ。
「俺がお前に教えてやれるのは、勉強くらいかもしれない」
「え?」
エンジン音。
それから、ページを捲る音。
大きさなんか全然違うのに、同時に耳へ入ってくる。
抑揚のない彼の声も。
「俺は何も知らない」
「…そうか?」
無知の人間があのような難解な数式を解けるだろうか。
そうフォローしてやるも、サイドカーに身を沈める彼は、弱く首を振る。
そういう「知」じゃないよ、と。
「お前は知っているのに俺が知らないこと、たくさんあるだろ」
「そりゃ人は誰しも秘密を持ってますからねぇ」
「秘密、もそうだけど…違う、もっと」

その後に言葉は続かなかった。
マフラーからけたたましい音が響くだけ。

「スザクと何かあったら、聞いて貰うから」
「へ」
「相談に乗ってくれるんだろ?」
「あ、あぁ…もちろん」
早く行けと背をつつかれたので、仕方無しに発進させた。
風が制服の裾をもてあそぶ。
ばたばたとはためきゆれる。




「お前はいい友達だよ」


それって
そんな寂しそうに言うセリフじゃないよね



(何を考えているのですか?)





【END】


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