ボロキレノベル

□となりじゃない
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「美味いんだから黙って飲めよ。甘いの嫌いじゃないっしょ」
「確かに嫌いではないが」
「あ、イチゴ類の方がよかったか!」
「馬鹿にしているのか」
文句を言いつつも、まんざらでもなさそうな顔で緑色をしたそれを飲み下す彼。
そんな姿が微笑ましく思えた。
「一口ちょおだい」
「え、」
「オレそれも好きなんだ」
「いや、でも」
何故だかうろたえる彼の手から、するりとカップを奪い、ストローを咥える。
ほんのりと苦い、けれどまろやかな甘さが、口の中へ柔らかく広がった。
彼はそんな様子をじっと見つめている。
「どうかした?」
無遠慮な視線に居た堪れなくなって、そう声を掛ける。
彼は訝しげな表情で一言吐いた。

「…間接キスだぞ」

何を言い出すのかと思えば、だ。
しかしそれは、そこまで気にする様な事なのか。
まして自分達は男同士で、友達同士であるのに。
こう見えてデリケート、というやつなのだろうか。
そんな言葉で片付けていいのかどうかも謎ではあったが。
「そりゃ…申し訳ねぇ」
「え、あ、いや…悪い」
「ううんオレの方が」
「いや、今のは俺が」
「………えぇと」
「……うん」
「…はは」
「…」
2人の間に妙な空気が漂う。
やり場に困った視線を、地面へ落とした。
鳩と眼が合う。

「…んとさ」
「ん?」
戸惑いがちに声を掛ければ、隣に座る友人は確り応答してくれた。
気まずい雰囲気が少々軽減されたような気がする。
「な、何かモットーとかあるわけ?間接キスすると恋人できねぇー、とか…」
なので、先程の反応のフォローと、その場を和ませるトライとで、そう聞いてみた。
彼は何処か困ったように眉根を寄せる。
聞いては拙かったのだろうか。
しかし口にしてしまったものは仕方が無い。
彼の反応を待つばかりだ。
しばしの沈黙の後に、彼は重い口を開けた。
「そういう訳じゃないけど…何と言えばいいやら」
「え?なに」
しかし歯切れは悪い。
彼の横顔を見詰めながら今一度問う。
アメジストと視線が交錯した。
「…その、怒られるから」
「はぁ、誰に」


「恋人…って言うのかな」


ちちち、と頭上を小鳥が飛んでいった。
少し向こうでは、男の子が母親と遊んでいる。

「…うわ意外、いるんだ」
それは実に率直な意見だった。
「何処までいってんの?やった?」
吐き出してしまってから、失礼かと顔を歪めたが、そうでもなかったらしく彼は小さく頷いた。
恥らっている様にも見えた。これは気のせいかも知れないけれど。
繰り返すが本当に意外だ。
恋や性については全て自分よりも遅れていると認識していた彼が。
驚きでもあり、多少悔しさもあった。
だから自然と顔つきが―強張ってしまう。


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