ボロキレノベル

□懦夫は逃げ出した
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僕は君を理解できるのだろうか
何億光年もの遥かな道程を超え
君と巡り逢えるのだろうか
隣に立って、君の耳元で
優しい言葉を囁くことは
できるのだろうか


















「ルキアノスが『歴史は如何に記述すべきか』の39章で語っているが、歴史とはそもそもそれが起きた通りに伝承されるべきであって、その点鑑みるとブリタニアの歴史叙述には納得できない部分が多々ある。コンセンサス…合意はあるにしても、事実という、歴史叙述の上で最も重要な要素が抜け落ちているからな」

僕には解らない。
ルルーシュの頭の中はどうなっているのだろう。

「かといってヘカタイオスのように、古代ギリシア人から始まる創作的歴史叙述を真っ向から否定することもできないな。ホメロス叙事詩がいい例だが、その文学的価値は非常に高い。確かに史学的側面から見れば『イリアス』『オデュッセイア』の類は空想の域を出ないのだろうが、俺個人としては中々興味をそそられるし。英雄伝はいつの時代も人々の心を魅了して止まないから」


彼が言う事も考えている事も、僕とは違う世界の事象に感じられる。
彼は簡単に僕の脳のキャパシティを大幅オーバーして、何食わぬ顔で去っていく。
待って、と叫ぶ猶予すら与えてくれない。
いや、叫んでも彼まで届かない。
近くにいないから。
遠くにいるから。
すごく遠く、それこそ何億光年も先に彼が立ってる、そんなイメージ。
だから彼が話す言葉は僕に届かないし、僕の声も彼には届かない。
僕の声が彼に届く頃には、僕はきっと死んでいる。

意味も根拠も無くそんなことを考えてしまうくらい…ルルーシュの言葉は難解だった。
取り上げるテーマが?
論理的思考が?
確かにそれも一理あるけれど、最たるものはそれじゃない。

こんなことを言ったらきっとルルーシュは怒るから、僕はいつも黙って彼の話を聞いている。
音楽みたいに、その言葉は頭の中へ染み込むことなく、さらさら流れていくのだけれど。
それでも聞いてる。


「あぁそういえば、お前もそうじゃないかスザク」
だから、聞き覚えのある単語が突然出てくると、驚いてしまう。

「ユーフェミア皇女殿下の騎士が日本人だなんて、エリア11の日本人にとってみれば英雄伝以外の何でもない。お前が騎士になったことは事実だとしても、恐らく今後其処へ尾鰭が着いて話が広がっていくだろう。それこそ『イリアス』に登場する『大石を掴んで引っ提げる』トロイの将軍・ヘクトールの様にな。話を大きくしたがるのは人間の悪い癖だよ」

ルルーシュは笑う。
よく解らなかったけれど、多分あまり機嫌がよくないのだろう。
僕も「そうだね」なんて当たり障りの無い返事をして、苦笑いを浮かべた。
こんなことは日常茶飯事だったから。





「えぇと、つまり」
それからノートに眼を戻して、シャーペンを手に話題を転換した。元の話題へ。
「アルウィン1世の存在は伝説上の話で、実在の確証は無い…っと。これでいいんだよね」
ルルーシュは少し眼を丸くした。
自分の話題の脱線振りにようやく気が付いてくれたらしい。
「あぁそうだ…悪い、余計な話をしてしまったな」
「構わないよルルーシュ先生」
「先生はやめろ」
呆れたような溜息が聞こえた。
「お前、質問とか無いのか?」
「特に無いかな」
今度は大袈裟に肩を竦める彼。
「無くても作れ。質問で得られるものは大きい。そうすることでその箇所に関して熟考するし、印象だってついて覚えやすくなる。勉学に積極性は不可欠だぞ」
「質問か…なるほどね、了解です先生」
「やめろって言ってるだろ」


僕は今、ルルーシュの部屋で、彼に歴史の講義をしてもらっている。
名誉ブリタニア人任命試験の時に勉強はしたものの、やっぱりブリタニア史には弱い僕だ。
出席日数もギリギリなのにその上成績まで悪いんじゃ、本気で退学になりかねない。
そんなことになったら、ユフィにも申し訳ないから、僕は必死だった。
逆に、僕と同じくらい学校を欠席しているはずのルルーシュは、流石というか、ブリタニア史には強い。
というか、歴史全般、否、勉強そのものがもともと得意なんだろう。頭の回転速いし博識だし。
そういう教育受けてきた人間はやっぱり違うって、思い知らされる瞬間だ。


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