ボロキレノベル

□やめて紙一重
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僕とルルーシュは2人で遊園地にいた。
仲直りのために一緒に遊びに来たんだ。
…って甘い展開になると思った?そんな訳が無い。
2人揃って仲良くバイト中なんだよ。


「わんちゃんありがと」
可愛い女の子が、僕のあげた赤の風船を持って手を振ってくる。僕は笑顔でそれに手を振り返した。
いや、笑顔なんか取り繕っても、僕の頭部はイヌのデカいきぐるみによって覆われてるから、全く意味が無いのだけれど。
ふと隣で「ネコさん風船ちょうだい!」と騒いでいる子供の声が聞こえた。
其処には、足元で男の子に手を伸ばされているネコのきぐるみ。
皆さんお察しの通り、中身は憮然としたルルーシュ・ランペルージです。
ネコさんは、ぴょんと片足を上げて、手は招き猫ポーズで、というサービスをした後に青の風船を少年に渡した。
少年と共に僕も大喜び。だってあれ、中身はルルーシュだって考えるとかなり笑えるポーズだ。


少年が走り去り、ネコさんはぐるぐると肩を回す。
このきぐるみ結構重いから、肩こってるんだろうな。しかも熱いし。
「クロヴィスランドの方が時給いいんだけど…さすがに皇族のお膝元はな」
眼を山型の線で描かれた、笑顔のネコさんには似つかわしくない、疲れ果てた低い少年の声が聞こえる。
夢の国でそういうリアルな話しちゃ駄目だろ。
「でも考えたね。これなら時給いいのも頷けるし、顔が隠せるのは何よりありがたいよ」
「だろ?俺だって考え無しじゃないさ」
顔が見える接客というのが都合に悪いのは、僕だってルルーシュだって一緒だ。
しかも此処は生徒会長さんの知り合いが経営してる遊園地らしく、彼女の紹介もあって履歴書は不要だったし。ひとまずは安心だ。
…けど、それを考えると、バイトの中身を考えてハラハラしていた僕はかなりマヌケだ。
普通のバイトじゃないか。なんで隠すんだよ。
いや、恥ずかしいか、やっぱ。

…あぁ、そういえば。
「ルルーシュ、ひとつ聞いていいかな」
「なんだよ」
「既に一回聞いてるけど…なんでお金が必要に?」
う、とルルーシュのうめき声が聞こえた。何をそんなに言い難そうにしているんだろう。
しばし考え込んでから、ルルーシュはまた此方を向く。
「笑うなよ」
え、なに、笑い話なの?


「シャーリーの携帯を壊したんだ…」


ルルーシュは俯いて語りだした。
なんでも、携帯を部屋へ忘れてきた時にナナリーへの連絡をしなければいけなくなって、致し方なくシャーリーの携帯を借りたそうだ。
けれど借りて電話した場所がいけなかった。ルルーシュは会話をあまり聞かれたくないと思って窓から身を乗り出して電話をしたらしい。
そこで、タイミング悪く足に噛み付いてきたアーサー。
突然の痛みに手を離してしまい、携帯電話はそのまま落下、はいお陀仏、という次第らしい。
「弁償はしようと思ったさ、金はあるし…でも其処に会長がいて『ちゃんと働いたお金でお詫びしなさい』って、此処を…!!」

「…っぷ」
しまった。堪え切れなくて笑ってしまった。
だって可笑しいじゃないか、箱入り息子のルルーシュが弁償のために一生懸命風船配りしてるなんて。
生徒会長さんも生徒会長さんだ。このルルーシュにバイトを薦めるなんて普通じゃできない。

すると。
しばらく黙っていたルルーシュが、ずかずかとこちらへやってきた。
そして、その不自然な笑顔を湛えたまま(いやきぐるみだから当たり前だけど)、ズドンと僕の鳩尾へパンチを繰り出してきた。
素手に素肌だったら大層なダメージだったろうけど、あいにく今はお互いにきぐるみを介しているから、痛みなんて全く無かった。
それより心配なのは、衝撃で手に持った風船が飛んでいかないかどうかだ。
「ちょ、ルルーシュ」
「笑うなと言ったはずだぞ…!」
「でも僕、笑わないとは言ってないよ」
「キサマぁ!!」
近くにいた子供が「ネコさんがイヌさんとケンカしてるー」と喜んでいる声が聞こえた。

「いたた、解ったよ!今日の給料で帰り何か奢るから」
「何を言っているんだ、お前の給料は俺のものだぞ」
「はぁ!?」
「援助」
「…はい」


◇ ◇ ◇ ◇


とりあえず
体力も協調性も常識も欠けてるルルーシュにも、できるバイトがあるんだと発覚したところで、話は終わりにしておこう。
ちゃんと稼いでシャーリーに頭を下げるルルーシュ、という珍しい光景を僕は見物できたのかどうかというのは、また別の話だ。




【END】


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