ボロキレノベル

□やめて紙一重
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何気ない空気、何気ない会話の中で。
紡がれた彼の一言が、まるで大型船の碇の様な重みで以って、僕の意識に圧し掛かってきた。
久々にルルーシュと一緒の夜を過ごしていた僕は、例に漏れずリラックス状態にあった。故に、その衝撃は通例の4.68倍だった。
白兵戦に例えるなら、勝利を確信して油断していたところに、横方から鳩尾へ蹴りを食らった感じ。
ナイトメア戦でなら、目前の敵に集中していたところに、上方から別機のスラッシュハーケンが伸びてきた感じだ。
…いや、そんな堅苦しいメタファはどうでもいい。とにかく僕が酷くショックを受けたということを解って貰えれば、それで。
だって考えてもみて、信じられる?想像できる?
あの
あのルルーシュが

バイトするなんて



やめて紙一重




「それは何に対して驚いている顔なんだ」

しばし僕の顔を眺めていたルルーシュは、深い溜息と共にそうぼやいた。
余程僕の表情が間抜けだったのだろう、彼は笑いを通り越して呆れている。
いや、何に対してって、全部だよ。全部全部!!
唐突に「スザク、俺バイトするから」なんて言われて驚かない訳が無い。
シャーリー達なら納得だ、でもよりによって君が、あの君が。

「不満か、俺がバイトを始めること」

違うんだそうじゃなくて、何故世を忍ぶランペルージ君がわざわざ公衆の面前へ出てバイトをするのかと、その理由が聞きたいんだ。
身を隠すなら、生存を悟られたくないのなら、それらしく学園内で大人しくしていればいいのに。
なにそれ、なんでバイト?苦学生なのか君は?
いや待って。
それよりまず聞かなきゃいけないのは、バイトの内容じゃないのか。内容を聞いてから止めるか否か判断するのでも遅くは無いと思う、うん。
郵便局の仕分け作業?まぁそれなら健全だし、初めてのバイトなら公共機関の方が安心だ。なら選挙の手伝いも有り…いや、そもそも今の此処に選挙は無い。
コンビニの店員?うーんイメージじゃないな。第一彼に接客できるはずが無い。となるとウェイター系もアウトだ。
塾の監督官、厨房、特撮ヒーローのスタント…色々と考えてはみるけど、どれもいまいちしっくりこない。
というか、ルルーシュにできそうなものがない。言っちゃ悪いけど、体力無いし協調性に欠けるから。
って、何をしてるんだ僕は、考え込んでどうする!

「おいスザク、さっきから何をブツブツと」
「何やるの!?」
「は」
「何のバイトやるのか、教えてほしい!!」
気合を入れすぎたか、語気が少々強くなった。
これじゃ僕、1人で如何わしい妄想して興奮してたみたいじゃないか、恥ずかしい。
ルルーシュはやはり訝しげな顔をして僕を見ていた。
そして、一度肩を大袈裟に竦めると、その口を開いた。


「居酒屋」


ありえない!!
一番ありえない方向に話が展開している!!
僕は軽い眩暈を感じた。だってやっぱり嫌だ、想像したくない。
ルルーシュが軽々とビールジョッキ片手に3つずつ持って「生6つお待たせしました!」なんて元気よく言う姿は。
酔っ払いが呂律の回らない口で呼ぶのを「はいただ今おうかがいします」なんて笑顔で待たせる姿は。
客が会計を済ませている間に下駄箱から靴を出して、「足元お気をつけて」なんて丁寧に並べる姿は。
あぁ嫌だ、いくらガサツになったからってそこまでやらないでよルルーシュ。
そうさ、お金なら僕が、僕が昇進して腐るほど稼ぐから。それで君のパトロンになってあげるから。
お願いだから黒の三角巾とエプロン姿で薄暗い店内を走り回らないで!!

「…とでも言うと思ったか」

え、うそ、冗談?
うわぁ心臓に悪い上に地味な冗談だ。嫌な汗掻いたじゃないか。
けどルルーシュがこういう別に面白くも無い冗談を言うときは、大抵本当の事を言いたくないときだ。バイトの内容は知られたくないとでも言うのだろうか。
なら他のラインから攻めるまでだ!
どこまでも短絡的な(とルルーシュに言われている)僕にしては、この数分間で随分と頭を使っていた。珍しいこともあるものだ。
キャラがルルーシュと被りつつあるなんて事、最早気にしている余裕は無い。
少々荒い手を使ってでも目的と、果てにはバイトの内容を聞き出さなくちゃ!

「なんでバイトするの?」
「金が要るから」
「そのバイトを選んだ理由は?」
「時給いいから」
わ、解り切った事を…!!
「じゃあ聞くけど、そのバイトって何!?」
「秘密だ」

きぃぃ!


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