ボロキレノベル

□KID
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腹違いの妹、同じ学校に通う妹、箱入り娘の妹。
彼女がこんな時間にこんな俗物に溢れた街を歩いているなど、ルルーシュには信じ難い事態だった。
(何をやっているんだあいつ…っ危ないだろうが!)
今すぐにでも追いかけて引き止めてやりたいところだったが、彼女が何処へ向かっているのかが気になるというのも事実だ。
小さな紙袋だけを持って、一体何処へ。
(そうだ、惚けられたらそれまで…現場を押さえて家に帰らせないと)

そう決意して、足音を忍ばせ彼女の後を追った。


◇ ◇ ◇ ◇


ユーフェミアは、ある店の前で立ち止まると、其処の地下へ続く階段をさくさくと下りていってしまった。
ルルーシュも彼女へ追いつき、慌てて小さな立て看板を見遣る。
小さな黒板の様なボードにチョークで書かれた文字。
「『ガウェイン 貴女に最上の甘き夢を』…?」
なんだこの怪しげな店は、と思わず眉根が寄ってしまう。
躊躇したが、彼女を放って置く訳にもいかない。
(見つけたらあいつを連れてすぐに逃げればいい…逃げ切れないようなら先程の店へ駆け込んで警察を)
逃走経路を確認し、息を飲むと、勇んで階段を下りていった。


◇ ◇ ◇ ◇


「ようこそガウェインへ」

階段を降りきったところに佇む扉を開けると、其処にはやたらと顔の整った男。
オールバックで結った黒髪と眼鏡、そして胸元の黒蝶ネクタイが目に入る。
彼はちらりとこちらを見遣ると、不思議そうな顔をした。
「お客様、お一人様で?」
「あぁすみません、人を探していて」
店内を見回す。
豪奢なシャンデリアが下がる薄暗い空間には、女性の上品な笑い声が響いていた。
ドレスを着込んだ煌びやかな格好の女性たちを持成すのは、これもまた精悍な顔立ちの青年たち。
優美な仕草で酒を注ぎ、煙草の火を点けてやり、立ち上がる女性がいればそれをエスコートする彼ら。
慣れぬ空気にたじろいでしまう。

「あの、お客様?」
出迎えてくれた男が、困ったような声を上げる。
ルルーシュは気を持ち直して「あの」と彼へ質問をした。
「たった今、此処に学生服の女が入ってきませんでしたか」
すると、彼はまた困惑した様子で
「申し訳ありませんが、当店では訪れたお客様の個人情報は秘匿しておりまして、些細なことでもお教えできません」
と頭を下げてきた。
それは困った。
(参ったな…此処に入ったのは確実なんだ)

幾分か考え込んだ末に、入り口で待っていてもよいかと聞いてみた。
すると、男は穏やかに微笑みながら言う。
「でしたら、お詫びに当店の美しき騎士にお客様を御持て成しさせましょう。立ってお待ちになるよりも、お座りになって時間を潰されては如何です?」
「え、でも」
「ちょうど今ならば当店のナンバー2が空きとなっていますのでお楽しみくださいませ。当店はお客様の性別など問いませんし、お詫びの気持ちとして料金も引いておきます」
ナンバー2?
空き?
性別、料金だ?
問いただしてやりたい事が山ほどあったのに、いつの間にやら赤クッションのソファへ案内され、其処へ座らされていた。

(な、何事だこれは…!!)
困惑を隠せない。
幸い案内された場所は入り口が見える場所であったから、ユーフェミアが通ればすぐに気がつく。
早いところ彼女を見つけ、なんとかして貰わなければ。
ガチガチに固まってソファへ座るルルーシュは、焦る脳内で必死にそんなことを考えていた。



そして、其処へ1人の青年が近づいてくる。



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