ボロキレノベル

□KID
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「ルルーシュってさ、モテて告白されまくってんのに、断るたびに元気なくなるよなぁ」
「…そんなこと無いさ」
いや、確かにそうだ。
こいつは馬鹿の様で色々と見ている。
苦くなって、ルルーシュは笑顔を歪めてしまった。
リヴァルは変わらず明るい。
「気にすんなって、向こうだって天下のルルーシュ・ランペルージに告白しようと思った時点で覚悟は決めてただろうし」
「やめろよ、そういう言い方…俺にも彼女にも失礼だ」
「おおっごめんごめん」



カラリと、グラスの中で涼しげな音を立てる氷。
几帳面にも、それには美しいダイヤカットが施されていた。
器用なものだ、と店主の無骨な男らしい手をぼんやり眺める。
あの手からこの繊細なものが作り出されているのかと思うと、なんだかおかしく思えた。
透明なスプリッツァーの中濡れながら光るそれは、妙な艶気を持っている。
大人の、艶?
(…大人ねぇ)
フン、と嘲笑。
自分の下らない思考を霧散させるかの如く、ルルーシュはそれを一気に咥内へ流し込んだ。
空になったそのグラスへ、店主が再び別の酒を入れる。
今度は濃い赤紫をしていた。


「あの…えっと」
初老の男に話しかけようとしたが、名前を聞いていなかったことに気がついた。
口ごもってその細い目を見上げれば、男は
「マスターでいい、君は?」
とこちらの意を汲んでくれた。
ルルーシュが名乗りあげる前に、隣のリヴァルが「こいつルルーシュ」と紹介する。
「そうかルルーシュ君、君もアッシュフォードの子なんだな」
マスターはルルーシュの制服を見つめながらぽつりとそう溢す。
頷くルルーシュ。
マスターは目尻にしわを刻んで微笑む。
「私の息子もアッシュフォードに通っているそうなんだ」
「そうなんだって、息子さんから直接聞いてないんですか」
彼の不自然な発言にそう漏らしたルルーシュは、マスターの表情が徐々に曇っていくのを見た。
「離婚した妻が引き取って行ってね。長年勤めていた会社をクビになって荒れていたから仕方が無いのだが…もうしばらく会ってない」
「あ…すみません」
「いやいや、こちらこそ暗い話をしてしまってすまないね」
そうか、この初老の男から感じる訳の解らない哀愁は、苦い人生経験から滲むものなのだ。
彼のひっそりとした悲しみは、店全体に満ちている。
だからか?
感傷に浸りたくなるのは。


「ところでさぁマスター、今日お客少なくない?」
リヴァルがグラス片手にあたりを見回す。
彼の口ぶりから察するに、普段は賑わう店の様だ。
マスターはリヴァルの発言に苦笑いを浮かべる。
「近頃は客足もぱったりだ…若者はこんな寂れたバーより向こうの方が好きなんだろう」
「向こう?」
何を指して言っているのか解らず、ルルーシュはそう声を上げてマスターを見遣った。
彼はその無骨な手で以って窓の外を指す。
「そこの角を曲がった所に新しく店ができてね…随分と賑わっている様だ」
「チェーンの酒屋かなんか?俺はマスターの店好きだけどなぁ」
「俺も」
「ありがとう2人とも」

寂しげに微笑んでから、マスターは一杯の水を差し出してきた。
目の前に置かれた新たなグラスに、きょとんとするルルーシュ。
「無理に飲ませてしまったかな」
「え?」
「顔が真っ赤だ」
頬に触れれば、確かに其処は熱を持っていた。
まさか一杯で酔うとは。
「外で風にでも当たってくれば?」
「じゃあ少しだけ…悪いな」
「いんやぁ」
カウンター席を離れて、ドアを押し開けた。


◇ ◇ ◇ ◇


大通りから少し入り込んだ場所にある路地だから、喧騒は然して気にならなかった。
薄暗い路上で、大きく呼吸する。
携帯の時計は23時を指す。
(ナナリーに電話しておかなきゃな…)
久々の夜遊び、家に独り留守番している妹が気がかりだ。
こんなとき親がいてくれればと思うが、所詮は無いもの強請りである。
(離婚…か)
溜息が漏れる。


「…ん?」
そして、ふと視界に入ったもの。
それはよく見知った少女の姿だった。
クリーム色の制服を着て、桃色の髪をなびかせ歩く少女。
あれは。
(ゆ、ユフィ…!!)
義理の妹、ユーフェミアだった。


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