ボロキレノベル

□KID
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今思えば
それは必然だったのだ

この暗く狭い世界を変革してくれたのは
間違いなく彼だった




K I D





「待てリヴァル!」

ルルーシュ・ランペルージは走っていた。
ネオンが眩しい繁華街、人混みを縫い、友人に強く腕を引かれるまま。

「どこまで行く、戻れ!」
先程から静止を掛けるのだが、親友のリヴァルは笑みを絶やさずひたすら歩く。
「いいから着いて来いよルルーシュ、いい所連れてってやるからさぁ」
週末であったし時間が時間だ、その賑わいには想像を絶するものがあった。
その街並みに、彼らが着込むエリート校の制服は似つかわしくない。
多少なりの注目を集めつつ、ルルーシュは足早に行くリヴァルの後を必死に着いていった。
少々人の多さに酔いながら。


◇ ◇ ◇ ◇


そして、行き着いた先は一軒の洒落たバーだった。
入口には暗いランプと「BAR Giappone」と書かれた小振りの看板が置いてあるだけ。
制服でこんなところへ入ろうというその勇気は褒めてやる…と半ば呆れるルルーシュ。
しかしリヴァルは「ここ知り合いの店だから」と迷うことなく入店してしまった。
人目を憚りつつ、ルルーシュもその後を追い扉の中へ滑り込んだ。
木製の古びたドアに取り付けられていた小さなベルが、チリンと鳴った。


「やあリヴァル君」
「マスターこんばんは」
店へ入った友人を、カウンターの向こう側にいる初老の男性が暖かく出迎える。
彼と目が合い、ルルーシュは浅く会釈した。
ガッチリとした肉体と釣り眼がちの顔つきに反し、その語り口調からは酷く穏やかな印象を受ける。
(この男が店主か)
リヴァルに腕を捕まれたまま、ぐるりと辺りを見回した。
橙の照明にぼんやりと照らされた店内に、客はいない。
木製の丸テーブルと椅子がひっそりと並べられているだけだ。規模も小さい。
しかし、雰囲気は落ち着いていてなんだか感じの良い店だ。
(へぇ、なかなか)
まんまと気をよくしてしまったルルーシュは、自分たちが制服のままだということも忘れ、しっかりカウンター席へ座ってしまった。


「今日は随分と綺麗なお友達を連れているんだね」
軽く笑いながら、男性はごつごつした氷の入ったグラスを置いてくれる。
其処へ注がれる2種の透明な液体。
「あ、あの酒は」
さすがに、と僅かながら遠慮の意を示すが
「スプリッツァーだよ、白をソーダ水で割っているんだ。飲んでごらん」
とやんわりと勧められてしまう。

自分たちはまだ未成年であるし、独り家の中で飲むなら未だしもこんな開けっ広げの場所でアルコールを口にするのはどうかと思う。しかしバーに自ら勇んで入ってきたのは此方であるし、この店主からすれば例えそれが犯罪であるとしても食い扶持の頼みなのだから、ここは眼を瞑って飲むべきではないか?勧められたものを素面で断ってしまうのも余りに無愛想の様な気がする。嗚呼解らない、大人の世界のルールなど子供の自分に解るはずがない。どうすればいい、隣の彼はいつもどうしているんだ。

色々と考えた末に、助けを求めて隣のリヴァルに視線を送るが、彼は既に一杯やっていた。
さすがに溜息が漏れてしまう。
色々と深く考え込んでいた自分が情けなくも感じる。
「どういうつもりだ、俺たちはまだ未成年だぞ」
「固い事言いなさんなって副会長サマ!」
お前は柔らか過ぎるんだ、とその額を軽く叩く。
リヴァルはひどく不満げだ。
「いいじゃん!今日はバイト無いんだろルルーシュっ」
「そういう問題じゃない!」
彼は、咎められる事で更に機嫌を損ねていく。
「なんだよ、せっかく慰めてやろうってのに」
「…慰め?」
「振ったんだろ、あの子」


リヴァルの言葉を受けて、ルルーシュは表情を強張らせた。
あまり触れてほしくない話題であったものだから。
そう。
今日、いいなと思っていた子に告白をされた。
そう確かに彼女に対して好意を抱いていた。けれど「付き合おう」との申し出を断った。
だって、好きなんて気持ちは知らない。
これは彼女に対する恋心なのか、それともただの親愛や友愛の情なのか…それが解らなかったから
「ごめん」と、頭を下げた。
確固たる自信も無いまま誰かに自分を曝け出すのは、酷く勇気の要ることだから。
けれどそうしたことで、彼女を傷つけて、自分も傷ついた気がした。
おかしな話だ。


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