ボロキレノベル

□Re:いちばん好きだよ
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「君が好きだから」

いい様、柔らかく抱き締められた。
久々に感じる、全身を包むスザクの香り。
反射的に、その背を抱き締め返してしまう。
「何よりも君が大切だから、何でもしてあげたくなっちゃうんだ。君に何かあったら嫌だから、何が何でも護ってあげなきゃって思うんだ。それくらいしか『体力バカ』の僕にできることは無いからね」
耳元で彼が笑った。
一言「これだけ言えば解るでしょ?」と付け加えて。
「情けなさなんて感じること無い。性別も年齢も関係無い。これは僕からルルーシュへの『好きの気持ち』なんだから、寧ろ誇っていい物だよ?ああ自分は愛されてるんだ…って」
柔らかな語り口調が耳に優しい。
諭すような言葉が心に優しい。
ひどく穏やかな気持ちにしてくれる。
(スザク…)
背を抱き返す手に、力を込めた。


彼の腕の中で顔を赤くしていたルルーシュは、ふと視線を感じて顔を上げた。
目前に、顔をほころばせた恋人。
「言わなきゃ解んないところが、またルルーシュらしくて可愛いよね」
「なっ…」
「普段は恐いほど鋭いくせに、自分の色恋沙汰になると途端に鈍くなるんだもんなー」
「うるさい」
ゴス、と胸板を殴る。
その動作で、スザクが持っていた紙袋がクシャリと悲鳴を上げた。
「うわ、すまない」
慌てて身体を離すルルーシュ。
折角くれたものを潰してしまうのは、さすがに忍びないから。
スザクからそれを受け取って、了解を取ってから包みを開けた。
紙袋から現れたのは、ベロアの様な手触りの、立派な四角い箱だった。
「なんだこれ」
「開けてみて」
ぱこ、と小気味の良い音と共に、蓋が開く。
覗いたものは。


「これは…」

先程ルルーシュが店で見ていた、銀の指輪。


どういうことかとスザクを見れば、彼は照れ臭そうに頬を掻いている。
「ナナリーのおみやげって言うのは口実で…実はルルーシュへのプレゼントを買うためにあの店行ったんだ」
開いた口が塞がらない。
「それとなく君が欲しいものをあの場で聞き出して、ナナリーへのお土産と一緒にこっそり買うつもりだったんだけど」
「いかんせん所持金が足りず、俺が興味深そうにこの指輪を見ていたから、仕方なく指輪だけ…という事だな」
「…です」
2人の間に沈黙が横たわった。

そして、間を空けてから、ルルーシュは可笑しくてたまらないとでもいうように、腹を抱えて笑い出した。
ぎょっとして目を丸くするスザク。
「物品の選択ミスだ、指輪のプレゼントなんて結婚を申し込んでるようなものだぞ!」
ひぃひぃと呼吸を乱して笑うルルーシュを、スザクは呆気に取られた様子で見詰めた。
「や、やっぱり駄目かな」
「駄目だな」
「うっ」
しまった、と息を飲んでしまうスザクに、ルルーシュは笑いで溜まった涙拭いながら向き直る。

「駄目だけど、受け取る」
「…ルルーシュ」




嬉しいなんて言ってやるものか。
プレゼントもそうだけれど、日々の細かな気遣いだって、悔しくも確かに嬉しかったんだ。
プライドの瓦解を誘うような優しさなんて、彼以外から受けたことは無かったから。
体当たりの好意が、新鮮で愛しくて。
けれどひねくれてるから、礼は言えなかった。
過去形?否、現在形だ。
お礼なんて言えないし、言わない。
「優しくしてくれてありがとう」など、恥ずかしすぎる。
喜ぶ彼の姿だって目に見えていて、なんだか癪だ。
だから、いつか自分のつまらないプライドを彼がぐちゃぐちゃに壊して、素直にしてくれるまで、パスだ。
(いつか、か)
長らくの連れ添いを期待する。
初めてだ、そんなの。
(ああ、俺はやはり)


指輪をそっと左手の薬指にはめてくれるスザクを見ながら

(こいつが好きなんだ)

密かにそう思って笑った。





【END】


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