ボロキレノベル

□Re:いちばん好きだよ
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帰りに買い物がしたいとかで、ルルーシュはスザクに着いて構外を歩いていた。
暮れなずむ街の色はすっかり橙に染まっている。
車道を行く車の数も増えていた。
そういえば。
スザクはいつも、車道側を歩く。
さり気無く自分を歩道の内側へと遣ってくれる。
他人を護るというのは、軍人の本能なのだろうか。
フェミニストの某義兄ならば遣りかねない話だが、自分は男だ。
護られるばっかりじゃ、やはり情けない。

そんな不満を抱えながらも、やっぱり久々に歩くスザクとの帰路には、心が躍った。


◆ ◆ ◆ ◆


「ここだよ」
商店が並ぶ通りに入った所で、スザクはぴたりと立ち止まった。
彼には似つかわしくない、ファンシーな雑貨がショーウィンドウに並ぶ店の前で。
男だ何だと考え込んでいたルルーシュは、図らずも眉を潜めてしまう。
「こんな所に何の用があるんだお前…」
「シャーリーが教えてくれたんだ。ナナリーにおみやげでも買って行こうかと思って。今日は遊びに行っても構わないよね?」
「あ、あぁ」
そうか、とほっとする。
丁度、スザクにそういう趣味があったのかと焦りを感じていたところだったから。



店内は薄暗く、数多のランプが暖かい灯りを点していた。
薄明かりに浮かぶぬいぐるみやジュエリーボックス。
ちらちらとランプに反射して光るアクセサリーも、何処となく情緒溢れている様子で、心が安らいだ。
アンティークショップを思わせる雰囲気だ。
「へぇ」
それが少し嬉しくなって、ふと目に入ったシルバーのリングを手に取る。
シンプルな作りだが、橙の灯りに照りかえり輝く姿は本当に美しい。
「中々いい品を置いているんだな」
指輪をまじまじと見詰めるルルーシュがそう溢せば、スザクはそれに応えて微笑んだ。
「女の子の目は厳しいからね。オススメってことはそれなりなんだと思うよ」
「言えてる」
ルルーシュも笑った。


「ナナリー髪の毛伸びたよね、可愛いピンでも買って行こうか」
微笑みつつそうぼやくスザクは、桃色のガラス花があしらわれたピン留めを取る。
手作りの値札を見て、その翡翠の瞳は少々丸くなる。
大方、予想よりも値が張ったのだろう。
(バカ)
全く呆れた男だ。
しかし暫く逡巡した末に、スザクはそれを手にレジへ向かってしまった。
「おいおい」
それを止めるルルーシュ。
「この下っ端軍人が、安月給の癖に無理な買い物をするな」
「で、でもナナリーのおみやげ…」
あくまでも彼はおみやげに拘る。
思わず溜め息が漏れた。

「手ぶらでいい、家族みたいなものなんだから」
そう言った瞬間に、スザクの頬は柔らかく緩んだ。
嬉しかったのだろう、ルルーシュの言葉が。
言った当人も頬を赤に染めた。
幸い、店内の証明具合の御陰で、それをスザクに勘付かれることは無かったが。


◆ ◆ ◆ ◆


「じゃあ、先に出てて」
「解った」
言われて、ルルーシュは静かに店を出た。
少し冷たくなった夕風に身体を晒す。
夕日をバックに飛んでいく烏の群れを見遣る。

商店街だから、通りかかる人の数もそこそこに多い。
買い物帰りらしい親子が通りすがり様に、夕食のメニューの話をしていた。
サッカーボールを手にした少年達が、転びながらも帰路を走っていた。
なんでもない風景だ。
けれど、馴染みの無い風景だ。

馴染みといえば、スザクからの扱いも、暫く受けていなかった応対だった。
皇子として、腫れ物に触る様に扱われることは多々あったが。
あの事件の後、アリエス宮を、母国を離れ、この地へやってきてからは味わっていなかった扱いだ。
(なんていうか)
慈しみ
優しさ
包み込むような気持ちに抱かれて。

けれど自分と彼とは性別が同じだ。
勿論のこと歳も。
だからこういう扱いを受ける謂れは無い。
他の友達らと同等の扱いで充分なのに。
妙に優しいから、ちっぽけな自尊心が騒ぐのだ。
ひねくれたものの見方しかできない自分の心の眼は、彼の行為を同情や哀れみだと受け取りがちだ。


(なんだかなぁ)
ぽりぽりと頭を掻いて、また溜め息。
ふと背後で店の扉が開いたので、身体を退かして道を開けてやった。



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