ボロキレノベル

□きれいにして、
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「ルルーシュくん」

そして廊下で鉢合わせた女。
噂の渦中、クラスメイトのアンだ。
自然と視線が厳しくなってしまったが、彼女はそれに気が付いていない様子だった。
躊躇いがちに此方へ歩み寄ってきて、俯いてしまう。
「あの…スザクくんから話、聞いたよね」
「はなし?」
手紙のことか。
そう思い当たったルルーシュは「ああ」と微笑みながら頷いてやった。
「いい話だ」
「本当?」
「スザクのことよろしくな」
え、とアンの顔が固まった。
「スザクも君のこと気に入ってたよ、気さくでいい子だって」
これは本当の話だ。
しかし、本来なら喜ぶべきこの場面で、彼女はどんどん顔色を悪くしていった。

そして底意地の悪いことに、ルルーシュにはそれが心地よく感じてしまう。
醜い感情の正体も解らぬままに、ルルーシュは言葉を紡ぎ続ける。
「けれど、勇者だな君も」
「え…」
「見合うとでも思ったか?」
スザクは軍人で、皆に慕われて、自慢の親友で。
対して君は、印象に残りもしない、ただ不快感のみを与えてくる嫌な存在。
そんな2人が一緒にいることなど、ルルーシュにはどうしても許せないのだ。
言葉ではゆだねる。
だが、真意は。
「どう考えたって釣り合わないのに告白した君の勇気は称えるが…まぁ、周りから反感を買うことは必至だろうな」
「そ、そんな」
大きな目から、大粒の涙が溢れ出す。
「身の程を知れ」

自分は何を言っているのだろう。
こんなことをして何の利益が上がるのだろう。八つ当たりか。八つ当たり?何に対する八つ当たりだ。スザクを取られることに対するか。スザクは所有物なんかじゃないのに。大事な親友なのに。ああそうか、親友だからだ。親友だから奪われたくないのだ。親友はお互いを独占するんだ。スザクは俺のもので、俺はスザクのものなんだ。
渡さない。
渡さない、渡さない渡さない、お前なんかにスザクは渡さない、渡すものか。
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろお前なんか消えろ邪魔だ消えろ、消えろ!





「…それって『ごめんなさい』ってこと?」
「え」
脳内を圧迫するほどの苛烈な思考に眩暈を覚えていたルルーシュに、アンの声が届く。
顔を上げた女の瞳に、光るもの。
ギクリと身体を硬直させた。
「そんな風に言わなくたっていいじゃない…っ」
待て、話が解らない。
スザクはそちらを気に入っていると、そう『ヨイショ』してやっただけなのに。
今のはスザクからお前のでなく、俺からお前への敵意だぞ。
ルルーシュはそう困惑して言葉を詰まらせた。
挙句、彼女はわっと声を上げて泣き出してしまった。
「嫌いなら嫌いって、はっきり言ってくれればいいのに!」
アンは走り去った。
呆然とするルルーシュを独り残して。


「…何を馬鹿な」
ふぅ、と息をひとつ吐いて、廊下の壁に寄りかかった。
きっとこれで、彼女はもう自分には二度と近寄らない。
それはつまり、スザクと2人で彼女が笑う場面を見ずに済むという事だ。
ひとまずは、作戦勝ち…なのだろうか。
(頭が痛い)
まるで何かが爆発したみたいに、頭の中で思いが暴れまわった。
こんなのは異常だ。


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