ボロキレノベル

□くるくるまわる
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彼は身動ぎすらしなかった。
一瞬置いて、その瞳から大粒の涙が零れる。
そのまま、また顔を埋めてしまった。


「もう、やだ」

ベッドへうつ伏せになって、上等のシルクシーツへ顔を埋める黒の恋人は、呻くようにそう言って、すすり泣いた。

「いなくなれ、おまえなんか」

寝る場所である其処に、ぴっちりと着込んだ制服はあまりに似つかわしくなかった。
皺が寄るんじゃないか、なんて思いもしたけれど、それを口に出来る程の勇気は持ち合わせていなかった。
泣いている恋人に、何一つ掛ける言葉を見つけてやれなかった。

「お前なんか嫌いだ、死んでしまえばいい、死ね、消えろ、いなくなれ、嫌い、嫌いだ、嫌いだ、死ね」

泣きながら、悲しげに声を震わせながら。
呪い言をつらつらと露の様に吐き続ける彼の姿は、酷く弱々しかった。
どうしてなんだ。
何故もっと卑劣に、冷たい声で、存在を否定してくれないのだろう。
そうされたなら此方とてもっと、怒りや悲しみを如実に表せたかもしれないのに。
そうやって、辛そうに言われたら。

「好きだよ」

優しくしたくなる。

「此処にいるよ」

伝えたくなる。

「泣かないで」

甘やかしたくなる。

「大好きだよ」



嫌いだと言うのは、好きだから。
突き飛ばすのは、抱き締めて欲しいから。
高笑いするのは、酷く泣きたい気持ちだから。
「するな」と言うのは、「してほしい」から。
死ねと言うのは、生きていて欲しいから。

そう自分に言い聞かせるのは、君に嫌われるのが恐いから。


「うるさい、弱虫」


嗚呼、やっぱり君の謂うとおり、僕は臆病者なんだ。

そう涙した。






【END】


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