ボロキレノベル2

□キスをしよう
2ページ/2ページ





キスをしよう








「ねえ、ルルっ」
「ん?」


振り向き様に優しく唇を奪われた。
触れただけだ、しかし彼女の唇は温かくて柔らかかった。
――と、ごく冷静に分析してはいるものの、正直少し驚いていた。

隣にいたスザクも、ぽかんと口を開けていた。



「…、何だよ突然」

やだ、本当に引っかかっちゃったよ!と楽しげに笑うシャーリー。
そうは言うが彼女の頬はほんのり赤に染まっている。十中八九照れ隠しだ。だがしかし、彼女に照れられても俺が困る。仕掛けたのは彼女の方なのだから。
曰く、ミレイ会長に吹き込まれた"いたずら"だったとのこと。またいらぬ妄言を吹き回っているのかあの人は。漏れる溜息はもはや慣れたものだ。
呆れも甚だしいが、実は理由など容易く予測出来る。会長はシャーリーの味方だから、恐らくこの"いたずら"と銘打ったものが、何らかの形でシャーリーにとってのプラスになるのだろう。それを狙っての妄言だと考えて間違いはなさそうだ。
…何の得があるのかは知らない。いや知りたくも無い。女のそういう類の話は長くなる上に取りとめが無いから苦手なんだ。


「ごめんね、急に」
「別に構わないさ。他愛ない"いたずら"だったのなら納得だ」

曖昧に頷くシャーリーの顔色は何処と無く沈んでいる。彼女は実に解りやすい。
俺と彼女の間に流れた気まずい空気を打開しようとしたのか、彼女は素早く席を立つと、部屋を出て行った。飲み物を買ってくる、と無理に明るく取り繕った声で告げて。
室内、この生徒会室に、再び静寂が訪れる。






「いいなぁ」

そして尊ぶべき静けさに水を差した馬鹿のそんな一言に、俺は眼を瞠らざるを得なくなった。
俺とシャーリーのやりとりを見て退室してくれていたと、そう思い込んでいたスザクは、ちゃっかりまだ自分の席に座っていた。いや、空気が読めないからそれが当然なのだろう。期待した俺が愚かだった。
嘲笑を浮かべつつ「どこが」と問えば、スザクは「ちゅー」なんて幼児語を発する。何だお前いい歳の男が「ちゅー」なんて。可愛い子ぶってるつもりなのか気色悪い。


「僕も女の子だったら人前で堂々と君にちゅーできるのかな」
「…元々人前で堂々とするものじゃないだろ。大体なぜ相手が俺なんだ、好きな女相手に好きなだけやっていればいいじゃないか」
「え、ああそういえばそうだね」

意味が解らない。女を相手にするという前提は吹っ飛んでいたのだろうか。となるとこいつの「いいなぁ」は「ちゅー」と言う行為そのものでなく「君にちゅー」に向けられているということになるのだが。おいおい。ますます解らない。
こいつの思考は本当に突発的で毎度理解に苦しむ。眉間に皺が寄っていくのを自分でも感じるほどに。


「ほんとになんでだろう」
「は」
「何で君にちゅーしたいって思ったのかな」
「知らん」
「別に特別可愛いとかじゃないもんな、君は男なんだから」
「当たり前だ。男が可愛くてどうする」
「うーん」

自分で言い出したんだろ考え込むなよ。俺なら絶対に言わないぞ、自分でも意味が解っていない様な事は。
それではまさしく"思ったことをそのまま口に出した"状態になるじゃないか。そこから派生する会話は実に下らなくて取りとめのない会話になることを俺は知っている。女の"恋バナ"と同じだ。勘弁して欲しい。
――なんて、俺が心の中でいくら思っていたってこいつには伝わらない。こいつはマオのギアスを持っているわけではないから。
条件は俺も同じ。俺のギアスは絶対遵守の力であって読心の力ではない。故にこいつが考えていることを直接的に理解することは容易ではない。他の人間に対する時以上にな。
しかし、こいつの場合はそれ以前に、空気が読めないから絶望的だ。俺の心を読む云々の前に、俺の機嫌を量ってくれないから困る。


「なんでだろうな」

ほらみろ。俺が望んでいない会話をまだ続けたがる。俺の顔を見て俺が嫌がっていることぐらい察して欲しいものだがな。
何をそんなに拘る理由がある。もういっそのこと、そんな話題をいつまでも引きずる自分に恥じて、顔を赤くしながら"飲み物を買いに"行ってもらいたい。
いや、それも困るな。


「君にちゅーか」
「もうやめろそれは。幾ら考えても解る訳が無い、不毛だ」

あはは、と軽快に笑ったスザクは果たして俺の言葉を理解してくれたのだろうか。
だったら褒めてやってもいい。考えるより動け、を地で行くこいつが頭で色々な事柄に整理をつけて、結局大概のところで思考を中断できたのなら。
まあ、それが出来たらリヴァルをして「空気を読め」などと言わしめることもなかっただろうな。誰もが予想することとは別の行動を取ってしまうからそんな風に形容されてしまうんだ。
平たく言えば、おかしいんだなこいつは。色んな意味でおかしいんだ。
人と違う部分があるからこそ人は個人たり得るのだが、これはそういう問題ではない。

お前は違うんだ、根本的に他の人間とは、俺にとって。
こんなにも。

何故だろうな。何故だと思うお前は。
こんな質問も不毛だな。しかし俺にも解らないことがある。答えがあるなら教えて欲しい。
何故だろう、此処には。



「じゃあルルーシュ」
「断る」



お前とキスするのはなんだか恥ずかしいと思う俺がいる。


女とは平気でも男とは駄目、って、言葉にしてしまえばごくごく当たり前のことなのだが、ニュアンスが少し違った。
男と言う広い意味ではなく寧ろ、スザクだから駄目なんだ、とでも言わんばかりに。
嗚呼馬鹿、俺の馬鹿。妙なことを考えていないでもっと時間を有効活用しろ。

「いたずらだから、いたずら」
「悪戯しますと宣言して悪戯する奴も珍しいな」
「だって君がシャーリーに」
「ああ言わずしてどう言えと」

えぇ〜、じゃない。ぶーたれるな立派な男が。
とにかくこの話題は終わりだ。終了解散さようなら。しっしっ。


「ケチ、減るもんじゃあるまいし」


ほざけ、減りそうだよお前とすると。
色んなもの持っていかれそうだ。

本当に、色んなものを。






「…ケチで結構」






あーあー、まったく。
なんて面倒臭いやつだ。
















【END】



←ノベルtop
←Main
←ボロキレ






.
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ