らいふ いず びゅーてぃふる!

□その花を、あなたに
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「あっ、双翼の大天使さま!」

「おはようございます!」


すれ違う天使たちが、挨拶の言葉を口にする。
見た目からして、天界に来てまだ日が浅いのだろう。
若くあどけない、翼の使い方。
なんだか懐かしくて、嬉しくなる。


「おはようございます。今日も一日、健やかにあれ」

「ありがとうございます!」


ふたりの天使は、わたしに向かって恭しくお辞儀をした。


始まりはもう覚えてはいないが、我が主である神の御許に仕え、幾星霜が経つ。
数多の天使を迎え入れ、また、星の数程の天使を元ある世界に送り出していた。
袖を振るい、流れ星のように降り注ぐ彼らの魂を
わたしは、この天界で、いつも見守っていた。


「我が主よ、ここに」


沢山の花を抱え、わたしは神が御座す玉座の前で
深く頭を下げた。


―――天界の様子は

「はい、何も変わらず」

―――転生が可能な天使は

「数人候補がおります。黄昏を迎える頃、我が主の御身へ」


どんなに位が高い天使でも、神の姿は見えない。
なので神はこうしてわたしの心に、ゆっくりと話しかけてくる。


―――その花は、


神のその言葉に、わたしは頭を上げ、両手を差し出した。


「我が主に捧げようと」

―――素敵な花だ

「勿体無きお言葉です」


わたしは一歩踏み出し、神の玉座にそれらを手向けた。


「我が主にご覧いただきたく、集めて参りました」

―――いい香りだ

「ありがとうございます」

花束は柔らかな光をまとい、水のように透き通るような輝きを放っている。
きっと神が、今まさに手に取ってご覧になっているのだろう。


―――時に、双翼の大天使よ

「は、はい、なんでしょう」


花束の輝きに見とれていたことに気づき、慌てて再び頭を下げる。


―――久遠の闇

「久遠の闇…」


聞いたことがある言葉だった。
しかし、実際に見たことはない。
なぜなら、そこは天界では禁断の扉≠ニ呼ばれている
天界で唯一禁忌とされている場所だからだ。

天使としての定めを忘れ、掟を破り、天使として存在することが出来なくなった者だけが向かうとされている場所。
その扉の向こうは地獄か闇の最果てか、あるいは虚無か
どこに通じるか、わたしでさえ知ることのない場所。
魔界に通じる、と言う話を聞いたこともある。

とにかく、別の世界に繋がっているのがその久遠の闇≠セった。
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