俺は今夢の中に居る。
視線の先には道化師が立っていた。

その周りは知った顔がいくつもあり、道化師を見ていた。

道化師は様々なパフォーマンスで皆を笑顔に変えていく。


「君も笑って下さい。」


道化師は俺に言った。


「皆笑っているのに、君だけが笑っていませんよ?」


だが、俺は納得出来なかった。

道化師、お前は笑っているのか?


「例え沢山のヤツが笑ってたって、お前が笑わないと意味が無い。」



すると道化師は俺の前に立ち仮面を取った。

そして涙に濡れた顔のまま、俺に微笑んだ。


俺が道化師を見入っていると、そいつの笑顔が薄くなる。
そいつの笑顔だけじゃない、周りの顔も道化師も俺自身もすべてが色褪せていく。

気付いた時には全てが消えて、代わりに見慣れた天井が映る。
共に視界に捕えた、無意識に伸ばした手は何も掴まない。

俺はそのまま部屋を出た。

夢を掴むことが出来ないなら、現実を掴めばいい。



底冷えする長い廊下を歩けば、そいつはソコにいた。
夜が明ける直前の空を眺めているその表情は、何も考えていないようで。

俺は好都合とばかりに近付いた。
今なら道化師の仮面を被っていない。

気付かれる前に腕を掴み、抱き締めた。
そいつは驚いて動けないでいる。

我にかえったらお前はどうする?
俺を突き放すだろうか。
拒絶するだろうか。


仮面を被っていないお前が出した答えは、ゆっくりと背中に腕を伸ばした。
どこか戸惑いがちだが、確実に俺を掴んでいる。


その時俺が幸せそうに笑っていたことなど、俺自身も知らなかった。





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