凍える物語
□せめて見て…
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目を覚まして最初に見たものは不二先輩の感情ない表情…
「先輩…俺…」
「…越前、僕はどうしたらいいかな…」
「先輩…俺が迷惑?でもね俺先輩が居ないと、生きてられないよ…不二先輩が俺の事嫌いって…信じたくなくて、逃げてきた…」
「…越前…逸らしていたのは、逃げてきていたのは僕のほうだ…」
病院の匂いは薬やらの匂いがするから、俺が今何処に居るのかはすぐにわかった…
「…先輩?」
「僕は、好きなんだ…君の事…」
「本当…?」
希望が見えた気がした…
闇が消えて、光が射したと…
そう思った…
「…うん、本当だよ…二人で誰にも邪魔されない場所に行こう…」
「…誰も居ない…俺達以外…」
そんな世界があるなら…
俺はどんなに幼稚なのだろう…
手を差し延べて掴んだものは、不二先輩の手でも足でもない…
俺が掴んで手に入れたのは闇だった…
俺は冷たい人形になってしまった…
どうして?
部員の皆が俺達を見て泣く…
隣には不二先輩が居る…
冷たくなって、動かなくなって人形になってしまったけど…
それでも俺達はふたりきりの世界を望んだ…
…望んでしまった…
身体…
動かないよ…
寒いよ…
先輩…?
きっと先輩も寒いよね…
だから動けないの?
だから動かないの?
…俺はもう駄目…
目も、耳も、先輩の匂いもわからない…
でも目が熱いよ…
頬が濡れて、渇くんだ…
抱きしめられたらどんなにいいだろう?
抱きしめて貰えたらどんなに温かいだろう?
幸せにできなくてごめん…
幸せになれなくてごめん…
消える事も…
泣くことも出来なくなってしまった…
なんだ…
ふたりきりになれるどなころか、俺はいつの間にか一人になってしまった…
どんなに叫んでも…
「ああああああああ…」
どんなに手を伸ばしても…
俺の世界には、ただ雪の降り積もる一面真っ白な世界しか広がっていない。
先輩…?
不二先輩…?
居た…
どんなに歩いた事だろう…
抱きしめた時、感じたのは…
崩れていく音…
骨が崩れる音…
ねぇ…
俺の声を聞かないまま…
俺達の願い、叶わないまま…
そのまんまのままで、消えてしまうなんて…
あ…
手が…
不二先輩を抱きしめようとしていた俺の腕ごと、骨になって崩れた…
待って…
待ってよ…
もう少しだけ…
舞って…?