第三公子の日常
□誕生〜家族になるまで
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俺が兇手(ころしや)を退治していた事を知った三人の表情はもはや青ざめているのを通り越して顔面蒼白といった有様だった。
「さて、兄上方。取引をしましょうか」
「は?」
この言葉に飛びついたのは第五公子だった。この中では一番下の立場である第五公子は何の因果か悪賢い。
「条件次第で、兄上は「病気のまま」で居てくれるのですね?」
「そうだね、話が早くて助かるよ」
今の俺を敵に回すのは得策ではないと踏んだ三人は、すぐに態度を改めた。
「私は面倒な事が嫌いです。この宮で面倒な事は起こさぬと約束してください。ましてや父上に目を向けられるような事態など言語道断です」
「分かった。その条件を呑もう」
愚兄が真っ先に乗った。続いて二人も条件に乗った。
俺はフッと笑って「では交渉成立ですね」と宣言した。これでこの愚兄弟共は関わって来ないだろう。
帰って行った愚兄弟共の後に母上がやって来た。
「母上」
「莎夜、珍しい客が来ていたようじゃな」
「はい、兄上方が」
母上は俺が「病気でない」事を知ってはいる。知っているが、俺が出たがらない事を知っている上に「好きにさせろ」という親父の密命で放っている。
「何ぞ、余計な目を付けられたか?」
母上の言葉に、首を振った。この人を巻き込むつもりは無いし、死なせるつもりだって毛頭無い。
「大丈夫ですよ、母上。あの公子達にそんな知恵はありません」
母上はそれを聞いて安心したのか、部屋を出て行った。夜になって話を聞いたらしい親父が来た。
「また来たのかよ、親父」
「三人が動いたと聞いてな。お前の所に来たって?」
「来たよ」
溜息を吐いて、親父の方を向く。親父は面白そうな表情をしていた。
それを見て心底嫌だと思った俺は絶対に間違って無いと思う。
「愚兄弟共が劉輝苛めんのにうちの廃屋使いやがったんだよ。面倒くさい、おかげで清苑兄上に会う羽目になった」
「ふむ、それは初耳だったな。お前が拾ったのか?」
「まあな。うちで死人が出てみろよ、大変な事になるだろうが」
確かにと頷いた親父は俺の頭を撫でる。本当は子供好きかコイツはと何度目かの考えが浮かぶ。
「というか、親父。もう来んな」
「お前の望みで目立たないように来てるだろうが」
「王ってのは居るだけで目立つんだよ。アンタに恋する女が六人も居るんだぞ、此処は。アンタの一挙一動から目を離す訳無いだろ」
親父はそれには何も答えなかった。代わりに俺の頬を握って伸ばした。
「ひゃめろおやひ」
「そうしていると年相応だがな」
呟かれた親父の声が、何処か悲哀を含んでいた。感情を持った親父の声は久し振りで、俺は首を傾げる。
「お前を見てると、思い出す奴が居る」
「ふーん……。どうでも良いよ」