第三公子の日常

□誕生〜家族になるまで
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侍女が用意した湯と、綺麗な布を受け取り粥を持って来るように告げる。
何しろ引きこもりなので、この時間の食事にも何とも思われなかった。

「劉輝、服を脱げ。傷がしみても声出すなよ」
「わ、分かりました……」

劉輝は少し戸惑っていたが、大人しく服を脱いだ。その間に布を湯につけて絞り、劉輝の身体を拭いた。
この時間に浴槽を使った沐浴は出来ない。王でもないのに、決まりやしきたりを破る事は出来ない。

「服は着れるな?」
「は、はい」

拭き終わってから夢心地になっている劉輝にそう言うと、慌てて服を着ようとした。
その前に俺は止まれと言った。劉輝の着ている物は度重なる暴力のせいで破れている。
何より、あんな所に居たせいで汚い。

「来い、淑莉(しゅくり)」

淑莉と言うのは、この宮の侍女の中でも凛としていて、俺の望みに忠実に動いてくれる侍女だった。

「はい、御用でしょうか?」
「私の小さい頃の衣装を持って来い。着れなくなったのがある筈だ」
「畏まりました」

淑莉はすぐに俺の淡い紫色の服を持ってきた。一度も袖を通さなかったものを持って来る辺り、俺の望みをよく見抜いている。

「劉輝、これを着るように。淑莉、御苦労だった。下がれ」

劉輝は俺の指示通りにした。そして、淑莉は粥を俺に渡して下がった。
その粥を劉輝に食わせ、俺はフッと息を吐いた。

「明日どうするかな……。あー、面倒だ」
「兄上……?」

劉輝が俺の手を握った。粥を食べ終わったらしい。
小さな手は少し震えていた。

「兄上は、私が……お嫌いですか?」
「嫌いでも好きでもない。お前を清苑兄上の所に連れて行くのをどうするか考えていただけだ」

劉輝はぼんやりとしていたが、やがて首を傾げた。「兄上は、ご病気では無かったのですね?」と。
どうやらこんな小さいのにも噂は伝わっていたらしい。舌打ちをして、「そうだよ」と答えてやる。

「病気の方が都合がいい。本当はそうじゃなくてもな」

そう言って、俺は劉輝を抱えて寝台に入った。劉輝は慌てて抵抗しようとしたが、問答無用で寝かせた。

「うるさい、暴れるな。お前のせいで疲れたんだ、抱き枕にでもなってろ」
「あ、兄上!」
「うるさいってんだろ。寝るぞ」

狸寝入りを決め込むと、劉輝は諦めた様に目を閉じた。暫くして寝息が聞こえ、淑莉が入って来た。明かりを消そうとする淑莉に、俺は起き上がった。

「母上が来るより先に起こせ。ついでに清苑兄上をこの宮の近くに連れてくるよう、あちらの侍女にでも伝えておくように」
「畏まりました」

淑莉が出ると、部屋は真っ暗になった。劉輝の寝息だけが聞こえる。
昔は誰かと一緒に寝る事が安心になったりしていた。だが今は、誰かが傍に居る事こそ警戒対象になっている。

「……疲れた、本当に」

静かに呟いた声は部屋の中で大きく聞こえた。
隣で安心したように眠る劉輝を見て、溜息を吐いた。

「馬鹿じゃないのか、お前は」

誰かと寝る事こそ、警戒しろってば。王になるくせに。
そう思いながら、意識が遠のいていく。
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