第三公子の日常
□誕生〜家族になるまで
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劉輝も五歳になったのだが、三年前くらいから愚兄弟共やその母親が劉輝を虐める様になった。
その行為は、自分の自尊心を満たし、自分の存在を肯定されているように感じるだけだ。
意味なんて、ほとんど無い。
だが、気持ちは分かる。この歪んだ後宮では、自分に価値があるかどうかで生死が分かれる。
まだ自分が「公子」である事を確認したいのだ。
誰とも会わず、誰とも話をしない。侍女にも侍官にも母上ですら最低限のやり取りしかしない。
そんな俺はふっと息を吐いた。
「もうこんな時間か」
誰も寄せ付けないその場所で、俺は周囲の暗さに気付いた。もう深夜くらいだろう。
寝るべきだ。そう思った俺は明かりを消そうとした。
――どこかから、泣き声が聞こえる。子供の。
珍しくその声に興味を持った俺は、部屋着に上着を掛けて外へ出た。
「莎夜様?」
「騒ぐな。私が部屋に居ない事は内密に」
そう指示をして、宮の周りを探す。泣き声は廃屋から聞こえてきた。
その廃屋は母上の物置だった。頂いた物や下賜された物を置いている場所だった。
今は場所を移したので何も無い。誰も使っていない。
「ここか……」
手に持っていた灯篭で扉を照らす。最早使わない場所なのに、珍しく鍵がかかっている。
俺はいつだったか貰っていたここの鍵を持った。ここの鍵を持っていたのは俺以外では第四公子だと聞いている。あの愚直な単細胞が使ったのだろう。
「誰か居るか?」
「ぐすっ……だ、誰ですか……?」
幼い声が返事をする。鍵を開けて、扉を開くと中にはボロボロな姿の泣きじゃくる餓鬼がいた。
「出て来い。そこは人が居るような場所じゃねえよ」
出て来た子供を灯篭で照らす。親父によく似た金髪の子供。間違いなく、末弟の劉輝だった。
「やっぱりお前だったか、劉輝」
「だ、誰ですか……っ?」
泣きじゃくりながら俺を見上げる劉輝に、溜息を一つ吐いて抱き上げる。
思ったより軽いのは、食事まで抜かされるからだろう。侍女も侍官も主の味方だ、妾妃が命じれば従う。
「てめえは兄弟の顔も知らねェのか。俺は第三公子。お前の兄ちゃんで、莎夜」
「莎夜、兄上……?」
劉輝の言葉に頷いて部屋に戻る。俺が子供を抱き上げている事に驚いた侍女や侍官が声を上げようとしたのを睨んで制す。
「声を上げるな、母上に聞こえる。すぐに沐浴の用意を。今夜の事は誰にも言うな、命令だ」
「か、畏まりました」
全員が俺の指示に従って迅速に動き始めた。誰も居なくなった部屋に入り、劉輝を長椅子に座らせた。
「劉輝、何時からあの物置に居た?」
「えっと……夕暮れ時だったと、思います」
「なら腹空いてんな。待っとけ」