第三公子の日常

□誕生〜家族になるまで
2ページ/26ページ

どの行事にも、どんな出来事にも欠席を決め込み続けた俺は、何とか十歳くらいにまでなった。
俺は戩華王の第三公子であったが、全く動かない引きこもりの公子として有名になった。

毒を入れて来た奴等も居たが、毒が無駄になるだけ。相変わらず生きて無視を決め込み続ける俺に、いつしか皆が毒を仕込む事も止めた。

「おい」

だが、俺にも「平穏」とは言えない出来事があった。
それが、これだ。

「おい、莎夜。父が来たと言うのに何だその態度は」
「うっせェよ親父。邪魔すんな、来んな、仕事しやがれ」

何故か、その父王こと戩華が定期的に来るのだ。
王が来る。それは他の公子どころか妾妃達ですら放っておけない事項になる。
何せ、「殆ど」自分の家族に目を掛けない王なのだから。

「その態度は何だ、父親に向かって」
「うるっせえって言ってんだよ親父。アンタが関わったら愚兄弟共と他多数が俺に目を向けんだろうが」

分かったら早急にお帰りやがれと啖呵を切れば、その親父は俺の頭を可愛げが無いと言いながら撫でた。
可愛げが無いのなら触らずとも良いだろうに。
ついこの間、第六妾妃の元で劉輝が生まれた。

「莎夜。お前は王位に興味が無いのか?」

親父がそう聞いてきた。俺はそこで初めて親父の顔を見上げた。
親父はとても真剣な顔で俺を見ていた。普通、十歳で聞く事じゃない。だが、物事は理解している歳だ。

「興味なんざ欠片もねえよ。俺はアンタじゃないんだ、親父」
「珍しいもんだな、俺の息子の癖に」
「アンタはその為に何人もの兄弟縁者をその手に掛けた。俺は血の惨劇なんぞ見たくも無い。ついでにあんな孤独で退屈な座に就くつもりも無い」

意味が分からん、愚兄弟共め。俺はそう呟いた。
公には同じ事を言えない。何故なら、それは母上と俺の死を意味するのだから。俺が第三公子である限り。
「全員仲良く」なんてこの後宮では幻想でしかない。

「親父、俺は絶対にココ(自分の宮)を動かねえ。誰が死のうと、誰が生き残ろうと知った事か」

自分の意思が無視され、大人共の都合よく祭り上げられる場所。それが後宮なのだ。
誰一人にすら心を許してはならない。言動の一つ一つすらも揚げ足を取る格好の餌になりかねない。

「そうか」

親父は俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。親父だけが、きっと理解しているのだ。俺の行動のその意味を。

「ただの餓鬼だと思ってただろ、親父」
「まあな。あんまり、無理をするんじゃねえぞ。餓鬼の癖に」
「アンタこそ、妙なとこで優しさを発揮してんじゃねえぞ。親父」

親父が首を傾げた。心当たりが無いのだろう。
そりゃ当然だ。俺が言っているのは、死ぬ事になるだろう出来事の話なのだ。
だが、それを言えるはずも無い。俺はただ誤魔化した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ