神の一手を打てたなら……

□第三局
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結果は、Saiの中押し勝ちとなった。

「……やはり、強い……」

願いが叶った彩花は、感激のあまり泣いていた。
やはり、強い者と対戦したい。もっと、もっと!!

神の一手を、極めんがために……!

いきなり、下の画面に文字が浮かぶ。チャットを送ってきたらしい。

【ヒサシブリダナ】

彼女は涙を拭って、パソコンに向き直った。会話が出来る、このチャンスを逃したくはなかった。

【ハイ、オヒサシブリデス】

そして、彼女は思い出した。もう一度打ちたいと、Saiとの再戦を望む彼の声を。

【タノシカッタデスカ?】

自分は、楽しかった。そして嬉しかった。久しぶりに強い、塔矢行洋と対局出来た。
なのに、力量が落ちているなどと言われたなら次に会う時までに強くなっていなければならない。

相手の返事が来た。

【モチロン。アイテニトッテフソクナシダ】

そう言われて、彼女の中の"直接打ちたい"という願望が強くなった。
こんなパソコンという箱の中でではなく、もっとちゃんとした碁盤と、石を持って。

【アナタニ、オアイシタイ】

相手の返事が、遅れた。

【アエルノカ?】

きっと驚いただろう。ヒカルは「会えない」と言ったのだから。
その時の彼女は……いや、彼は霊魂だった。会えるはずも、見えるはずもなかった。側に居たのに。

【アナタト、チョクセツウチタイ】

【コチラハコウツゴウダガ】

少女はすぐにでも会いたかった。だが、Saiという名は思うよりも広まっている。
ここで約束する訳には、行かなかった。

【ワタシガ、アナタヲオイカケル。アナタハ、ソノタカミデマッテイテクダサイ】

【アア……、ソノトキヲタノシミニシテイヨウ】

彼女はそっとパソコンの電源を落とした。目から、涙があふれている。
やっと。やっと、直接打てる機会が巡ってきた。

「塔矢行洋……、いつか!」

いつか、貴方と対局を!彼女は心の中で、そう誓った。ヒカルに、今度は負ける要素を見付けられないくらいに強くなる。

あの者と、同じ場所に立ってやる。

「すぐに、すぐに追いついて見せます……!きっと!」





次回予告!

「……Sai」

「泣いているのか?」

「私の、せいだ……」

「ごめんなさい、ヒカル――――……」
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