第三公子の日常

□王位争いまでの四年間
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清苑が居なくなったことで、やはり数名の妾妃が動き出した。
最初に動いたのは第一妾妃だった。太子の座が決まっている第一公子だが、あれほどまでに壊れた太子では地位が危うい。
地位を確立する為に、朝廷の重臣達を賄賂で取り込み始めた。

「呆れたこったな」
「兄上?」
「何でもねえ」

清苑が居なくなってから、時折劉輝はぼんやりとし始めた。俺と母上が居るから精神が保っている節があるのでこっちも危うい。

「何してた?何か悲鳴聞こえたんだが」
「お、お母さまのお茶を……いただきました……」
「おまっ!?」

母上の茶。俺でも何日か吐き続けたそれを、幼い劉輝が飲んだと知って思わず立ち上がった。
少しばらけた書類や報告書は後から拾えばいい。だが、劉輝がここで倒れるのは困る。

「体に異常は?気分悪くなったりは?」
「あ、ありません。ただ、苦かったのです……」

コイツは大物か。俺は呆然としながらそう思った。俺が吐いたのにお前は飲み干せるのかよ。

「兄上?」
「お前、すげーな……」

褒められたと勘違いした劉輝が目を輝かせて笑う。違う、呆れてんだ俺は。

「莎夜様」

その時、侍官が外から呼びかけてきた。入室する際には誰でも必ず一回外から呼びかけるのだ。

「入れ」

劉輝を膝の上に抱いて入室を許可する。重くなった劉輝のせいで若干太腿が痛い。

「薬湯のお時間でございます」
「……そんな時間ですか、机に置いておいて下さい」

侍官は机に薬湯を置いて下がった。誰も居なくなったのを確認してから薬湯をじっと見る。

「兄上、ご病気なのですか?」
「ンな訳無いだろ。第一妾妃か、ご丁寧なこった」

第一妾妃は一番最初に親父に嫁いだだけあって、親父への執着が強かった。
親父が振り向かないと分かったから、愚兄の教育に必死になったのだ。
愚兄が王になれば、親父は振り向かざるを得ないと思ったから。

「劉輝、母上の所に行って来い。珍しい画料が手に入ったとか言ってたぞ」
「画料……」
「綺麗な色が沢山手に入ったとさ、行って来い」
「はい」

劉輝を何とか部屋から追い出し、淑莉を呼ぶ。淑莉は不機嫌そうに眉を顰めていた。

「あからさまですね」
「本当にな。第一妾妃が俺の病気の振りを知らんとも思えんが」

淑莉がさっさと薬湯を持って行って処理した。本当に優秀な侍女だ、行動が早い。

「第一妾妃に御礼でも送りつけましょうか」
「止めとけ。やるなら裏からだ、母上を巻き込む」

劉輝を膝に乗せていたのは、あれが第一妾妃の侍官だと知っていたから。この後宮で劉輝の地位は低すぎる。

ついでに、俺を狙ったのは兄さんの次に位置するのが俺だからだ。ついでに、愚兄の凶暴さをこの目で見ている。十中八九口封じだろう。

「それより、母上に害が及ばないようにしておけ。劉輝もだ、誰がどんな手に出て来るか分からんぞ」
「畏まりました」

親父の恩赦の所為で思い上がった馬鹿共がどうなるか分からない。既に朝廷の機能が麻痺し始めた。

「この手にまだ権力がある事が救いか」

裏から操って朝廷の機能を持たせるしかない。親父に残された時間も残りが少なくなっていく。
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