第三公子の日常

□誕生〜家族になるまで
1ページ/26ページ

現代社会のブラック過ぎる社会に揉まれて早幾年。
今日も今日とて会社のために働く日々。疲れて眠っていた俺は、目を覚ましてとても驚いた。

「ほぎゃあああああ」

口から出るのは赤ちゃんの泣き声。
気付いたら赤ちゃんでした、ってか?
いや何コレ、笑えねェよ。

「おやおや、莎夜や。元気の良い事、母はここにおるぞ」

やたら綺麗な女性に抱き上げられた俺は、そのまま揺すられていた。
その時見えた長い袖に、ゆったりとした裳。妙に中華っぽいその衣装には見覚えがあった。

「莎夜や。そなたは賢く育つのじゃぞ」

悲しげに伏せたその美しい顔を見て、俺は動揺した。
どう見てもこれ、『彩雲国物語』だろ!!
少女向けのラノベであったにも関わらず、政治に深く突っ込んだ、夢見がちの部分が少ない小説だった。

だからこそ、老若男女惹かれたのだ。俺もその一人。
にしても、母上と呼ぶべきその女性はとても綺麗に着飾っていた。どうやら俺は上位の身分に生まれたらしい。

「そして、ゆくゆくは……そうじゃな、王位でも継いでたもれ」
「あー!?」

「王位」でも、じゃないと思う。何だその気軽さは。
そして、王位を継げる立場となれば「公子」以外の何者でもない。王の子供、王族である「公子」。
『彩雲国物語』において、その地位は厄介以外の何者でもない。
――――ふざけんな!!俺は、そんなものになるつもりは無い!

「公子」の有名なエピソードはたった二つ。二つ共に王位継承争いだ。先代王戩華が王位に就くため、父王とその子供達を全て始末してしまったのが一つ。
もう一つは当代王劉輝が後継者に就くまで行われたもの。第一公子から第五公子まで、王位を争って互いを食い漁った、傍迷惑な王位争い。

――「公子」という物に、全く意味を見出せない。今がいつであっても。

そう思った俺は、この時に決めた。誰の敵でも無いように、「不動」を決め込もうと。
誰が死んでも動かず、誰が王位に近付こうとも動かない。心さえも。

殺されたくなど、無いのだから。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ