神の一手を打てたなら……

□第三局
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平安時代の碁打ち 藤原佐為。

転生して女子となった藤原彩花は、書類を持って棋院へと来ていた。
勿論、院生試験を受けるためだ。

院生になれば、アマチュアの大会に出る事は叶わない。それでもいい、彼女はヒカルの側に早く行きたかった。

「すみません、院生試験を受けに来たのですが」

「少々お待ちください」

受付の女性が担当を呼びに行った。
しばらくして、担当の者が来た。

「君が、院生試験を受けに来たのかな?」

「はい」

「こっちだよ」

男性に着いて行く。もちろん、彼女には見覚えのある人だった。
ヒカルがお世話になったのだから、当然だ。

それから、また見覚えのある者達とすれ違った。

「伊角さん、また来たぜ」「そうだな」

和谷、という青年と伊角、という青年。

クスッと笑って、彼女は礼をした。
彼女の心の中は、懐かしさでいっぱいだった。昔はヒカルと来たこの場所を、自分が自分の体で歩いている。

それが嬉しかった。

少女が去った後、伊角と和谷は顔を見合わせた。

「あいつ、どっかで見た事あったか?」

「いや。初対面だと思うよ、彼女を見た事ない」

「でもなんか、知ってるような気がするんだよな」

「和谷もか。俺もだ」

「あの香り、どっかで……」

思い出すついでに、二人とも玄関の方を見て言った。

「今のが最後かな」「の、ようだな」

「なあ、伊角さん」「ん?」

「アイツ、受かると思う?」

和谷の質問に、伊角は答えた。

「多分、受かる。あの子の威圧は、けた違いだ」

「伊角さんも感じた?」

「まあな」

二人が感じたのは、"佐為"の威圧。
様々な碁を打ち、そして勝ってきた本因坊秀策。
その生まれ変わりだ。

「……やっぱ、会ってんだよな。多分」

「気のせい、には思えないしな」

「どこでだ?」「さあ」

その時、二人が思い浮かんだ人物がいた。

「そういやさ」「何だ?」

「6年くらい前にさ、アイツ来たよな」
「進藤の事か?」

そう、と頷きながら和谷は言った。

「進藤さ、アイツ最初は弱かったのに……いつの間にか、化けたよな」「ああ」

「受けたの、ちょうど今くらいでさ」

「今の子みたいだったな。ちょうど最後だった」



その頃、試験場の中では。

「棋譜と志願書、見せて」

担当に言われて、少女は封筒を差し出した。
中身の棋譜を見て、担当は目を見開いた。

「こ、れは……」

それも、相手の名前を見て尚更驚いた。

「お、緒方十段か……!?」

それを聞いて、少女は後悔した。つい、先日。対局した際に、動揺して間違えて"緒方九段"と呼んでしまったのだ。

一度だけだったので、覚えていない事を祈るばかりである。

「き、君は院生でなくともいいんじゃ……」

「いいえ、院生になりたいのです」

彼女は言った。

「何故……」

「若獅子戦に、出たいのです。戦いたい、プロがいる」

少女の気迫に、担当は圧倒された。
とても真剣だ。彼女は真剣に、プロと戦いたいのだ。

「……君は、そのままプロ試験を受けてもいいくらいの成績なのに」

「私はまだ未熟です。ですから、院生となって皆の碁を勉強したいのです」

「……そ、そこまで言うのなら……」

渋々と、担当は一応対局をした。
少女は当然の如く、勝った。相手は碁の天才なのだ。

少女は、二組に配属された。担当は一組に配属させたがったが、少女が断った。
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