神の一手を打てたなら……

□第二局
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平安時代の碁打ち、藤原佐為。

転生して女子になった藤原彩花は、碁会所へと来ていた。

もう11月も末。寒いので上着を着て、碁会所へと入る。

自動ドアが開いて、受付の女性が声をかけた。

「いらっしゃいませ」

その顔は、佐為がヒカルと共に見た時と変わっていなくて彩花は懐かしく思った。

女性は彼女の顔を見て、あら、と呟いた。

「もしかして初めて?見ない顔ね」

「はい、初めてです。藤原彩花と申します」

名を名乗ると、名簿を渡された。

「あ、彩花ちゃんね。ここに名前書いて、料金くださいね。

うーん……。でも、どこかで見たような……。会った事ある?」

彩花がぎくりとした。確かに会った事はある。一方的に。
それは、藤原佐為だった時の話だ。

「そうですか?私は初めてお会いしましたが……」

彼女が惚けると、女性はちょっと考えていたが

「そう……そうよね。ごめんなさい」

と謝った。誤魔化されたようだ。

「いえ。あの……席に行っても?」

「いいわよ。でも誰と打つ?」

彼女は迷いなく言った。

「ここで強い方と、打たせてください」

女性は少し困ったように

「うーん、強い人かあ……。でも打てるの?」

「腕には自信ありますから。それで、どなたが強いですか?」

彼女が訊くと、女性はきょろきょろと辺りを見渡して探した。

「そういえば……、今日はまだ来てないみたい。ごめんね、来てたらアキラくんと進藤くんが強いんだけれど」

彼女はまた、動揺した。そして、二人がいないことに感謝した。

「んー、だったらお客さんの中から選ぶしかないんだけれど……」

「うわあっ、これで十五人抜きだ!」

騒ぎが起こった。どうやら、客の一人が十五人抜きをしたらしい。

「へへっ、ここってこんなものかよ」

「嫌なお客さん。実はね、最近アキラくんと進藤くんが来るからって弱いお客さん相手にねじ伏せちゃうお客さんがいるの」

それを聞いた彼女は、口元をピクリと動かした。

「何ですって?」

「ホント、迷惑よねえ。何人も何人も倒しちゃって、それで威張ってるの。アキラくんや進藤くんなんて大したことない、とか言っちゃって」

ヒカル。ヒカルが大したことない。
彼女は怒りを爆発させた。

「次は誰だァ?」

客は周りを見渡して、誰も出てこない事に調子づいて言った。

「やっぱり塔矢アキラも進藤ヒカルも大したことねえな!これくらいで」

「私がお相手しましょう」

スッと彩花は、客の目の前に座った。

「お嬢ちゃんが?」

嫌な笑みを浮かべて、客は言った。

「はい。私が相手です」

「やめとけ、コイツ強いぞ」

周りが止めさせようとしたが、彼女は止めなかった。

「私は負けません」

「へーえ?んじゃ、定石いくら置くかい?」

客の態度に腹が立った彩花は、睨みつけて言った。

「いりません。一つも」

その言葉で、また周りがざわつく。

「なめてっと負けるぞ」

「そのお言葉、キッチリ貴方にお返ししましょう」

彼女は"藤原佐為"の時に持っていた扇子と同じ物を広げて言った。

「私をなめていると、負けますよ」

「んだと……ッ」

「まあまあ……」

客は、周りの客に宥められた後気をよくしたのか、「じゃあ先番はそっちにやるよ」と黒を持たせた。

当然、彼女は笑う。彼女はよく言っていた。

「いいんですか?私は黒を持ったら負けた事がありませんが」

「ケッ、言ってろ。すぐに泣くことになるぜ」

蓋を開けて、準備をする。

「「お願いします」」

対局が始まった。
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