中央

□壊れた映写機
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ちゃんとルフィは見張り台にいた。

登り着いたゾロに背を向け、黙ってそこにいた。

「ルフィ。呼んでんの聞こえなかったか?おい、ルフィ。」

よっと狭い見張り台にゾロが入ると、それでもルフィは黙っていた。

「ルフィ?」

ゾロはルフィの肩に手を掛けて、振り向かせた。

「!」

あ…、とゾロは言葉を飲んだ。
振り向かせたルフィは、虚ろな瞳で幸せそうに微笑んでいた。

「……ルフィ。」

ゾロは知っていた。

何者も拒絶して悦に入ってしまうルフィの表情を。

月に何度か、ルフィの身に起こる不思議な現象。


「…また、壊れた映写機になっちまってんのか…。」

ゾロは深い溜め息を吐いた。

自分のほうを向いているルフィの瞳には、何も映してはいない。

瞳の奥のフィルム、それを再生しているのだ。

最初にこんなルフィに遭遇したのは、まだ仲間がいなかった頃。

変な奴の船に乗っちまったと思い問いただし、打ち明けられた。


無性にエースを見たくなる時がある…。

そう、ルフィは言った。

そんな時、ルフィの中にある映写機が廻り始めるらしい。

成長しない、記憶の中にしかいない兄の姿を、何度も何度も何度も。

まるで壊れた映写機のように映し出す。

そうなると、ルフィはしばらく戻って来ない。


ナミ達の手前、ルフィをこのままにしてはおけない。

そう建て前をつけるが、実はゾロは自分の淡い嫉妬に駆られていた。

「………ルフィ。」

ゾロはルフィを覆うように抱き締めた。

すると、ルフィの肩がピクッと反応する。
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