中央
□呼吸を忘れた魚
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溺れる 溺れる
貴方という海を泳ぎ過ぎて
もう駄目だと、手足が思うように動かない
いいえ、動かないのは
手足ではなく
思考力…
「今日は綺麗な月が出てんな。」
忘れた頃に何故か現れたエースが、メリーの手摺りの縁に背をもたれ夜空を仰ぎ見言った。
「そうだな。」
船の外は2人っきり。クルー達は気をきかせて早々と寝床へと引き払っていた。
ルフィはエースに釣られるように、月を見上げる。
そのルフィの顔に、エースは静かに目を細めた。
「月がない日の海は、真っ暗で恐いよな。」
「え?なんだ、エース。海賊やってて、そんなん思うのか。」
意外なエースの言葉に、ルフィは可笑しそう小さく笑う。
エースはそのささやかな笑顔に、胸がチクリと痛んだ。
「昼間の海は、進む場所がわかるだろ。けど夜の海は果てしなく闇だ…。夜空との境目がわからない。俺は、その闇に溺れたように沈んでいきそうで恐いんだ。」
いやに真面目に話すエースに、ルフィは胸騒ぎを覚えた。
「よ…夜は、寝てんだから、わかんねーよ…。」
「ハハ…、お前らしいな。」
そこで会話は途切れ、二人の間には波の音だけがしていた。
呼吸よりもゆっくりとした、波の音が。
エースは黙ってルフィを見ていた。それにルフィも反らす事が出来ずに、エースを見る。
月の光を弱く反射して、エースの瞳が妖しく色付いているように見えて、ルフィの呼吸は早くなるのを抑えられなかった。
今のエース…ヘンだ。
ルフィは直感的にそう思っていた。