薄桜鬼長編

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しばらく仕事にも慣れてきたある日、おじさんから言い渡された依頼先は“斎藤”という人のところだった。住所は言い渡されていない。


住所が言い渡されていないということはよくあることだ。その人のその時いるところに時間通りに着くことができる私は、そこを売りにしているからその為であろう。依頼の2割くらいはそういったものだ。


だからこの時も特に違和感はなかった。


いつものように部屋でどこでもドアを取り出し、行き先をつげる。


「斎藤さんの所まで」


しかしドアを開けると――。


辺りは一面血の海だった。


現実離れしているその情景。


カタカタと震える体は、自分の意思に反して引き返させてはくれない。


後ろから足音がする。咄嗟にドアを風呂敷にもどし隠れた。


「ひゃはははは!ッ」

白髪のどこかで見たような人間らしき生き物が見えた。
あれは――羅刹。


でもあれは現実世界にはいないはずだ。
恐らくここはただの江戸時代ではない。“薄桜鬼”の世界だ。

ややこしいことになった。

もしそれが本当なら…


ザシュッ――


影に、怯えている少年──いや、少女の雪村千鶴が見えた。


「あーあ、残念だ
なぁ…」

軽快な声がする。

「僕一人で、始末するつもりだったのに。斎藤君酷いなぁ」

皮肉るように話す短い髪の青年。沖田総司の印象と一致する。

「俺は勤めを果たすべく、動いたまでだ。」

静かに話す長髪の青年。こちらはおそらく、斎藤一であろう。


…斎藤?

確か依頼人の名前も斎藤…。


仕方あるまい。
ここは逃げよう。

そう思って動いた時だった。


―カランッ


軽い金属音が響いた。


「そこにも誰か居るの?」


鋭い声がする。


風呂敷に手をかけるが。


それよりも早く首根っこを捕まれ、身動きがとれなくなる。



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