小説庫
□愛の狂気
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『愛の凶器』
「触らないで」
唇を離したシュバルツに、レイヴンはそう言った。
口付けながら身体を撫でた熱い指先に、神経が逆立った。
身を焼くほどの熱を発するこの人がレイヴンは怖かった。
強引にレイヴンを床に彼を押し倒したシュバルツは、彼の身体のうえに圧し掛かってバトルスーツに手を這わせる。
「ちょ…っ、いやだって言ってるだろこのッ…!」
レイヴンは首筋に顔を埋めるシュバルツの頭を思い切りなぐる。何回か(レイヴンにとっては)本気の力でなぐるがびくともしない。
しばらくしてシュバルツは上半身を起こした。
レイヴンは乱暴にシュバルツの身体押しのけた。
そして、もうでてく、と冷たく言い放った。
シュバルツの瞳が自分に背を向けた小さな背中を見つめる。レイヴンはシュバルツに背を向けて乱れたバトルスーツを調えた。シュバルツは澄んだ声で喋った。
「君の願いはなんだ」
「…何?」
いま言った僕の言葉への返事がそれ?
もう出て行くって言ってるだろ、街に出ればいくらでも声をかけてくるやつなんているんだ。
頭に血が上ったレイヴンがばっとベッドから立ち上がろうとする。そのレイヴンの二の腕をするりとシュバルツは掴んだ。
「君の望みを、」
レイヴンを抱き寄せて、シュバルツは言った。
「私はそれを叶えたい」
シュバルツの口からでた言葉は、今まで彼が一度も話さなかった本音だ。
彼をしめつける呪縛から、レイヴンを救ってやりたいと思っていた。
「…叶えてどうするの」
レイヴンは訊いた。
あなたは僕をどうしたいんだ。
レイヴンは傷つくことを恐れていたから言葉のやり取りにも慎重だった。
押しては返す波は、まるでレイヴンのこころそのものだった。
「どうすれば君をを救えるのかと」
「救う?」
問いかけに返された言葉に、またレイヴンは尋ね返す。
「あんたなんのつもりなんだよ。あいにくあんたの偽善者ごっこに付き合ってるほど僕は暇じゃない」
レイヴンは引きつったように笑った。
いつもの2人に戻る境界線が。
いつもみたいに冗談だよって言ってよ。
迷いなくレイヴンを見つめるシュバルツと対峙して、
行き場のない迷いだけがこみ上げてくる。
言葉を失ったレイヴンは、抱き寄せたシュバルツの2度目の口付けを拒むことができなかった。頭に何度もシュバルツの言葉が活字になってぐるぐると駆け巡る。シュバルツの気持ちを理解できなかった。
レイヴンは拒むことができなかった。
いつしかシュバルツの指がレイヴンの身体のうえを流れても、拒めなかった。
シュバルツの指はレイヴンの傷口を探しているようだった。
彼が頑なに、誰にも見せようとはしなかったこころの入り口を。
やがてその指がレイヴンの傷口に触れた時、レイヴンは熱病に冒された病人のように喘ぎの混じる声で言った。
やめて、痛いんだ
僕の傷をほじくり返して愉しいのかよ
その言葉に、シュバルツは優しく言い返した。
痛いのは、きっと
君が傷から目を背けているからだ
受け止めることが怖いなら、辛いなら
俺に預けてはくれないか
汗の滲んだレイヴンの額を何度も撫でながら、シュバルツはそう言った。
なにを…?
君の未来を
言って、シュバルツはレイヴンの傷口を撫で始めた。
痛くてたまらなかった。
未来?
未来ってなんだよ
僕には未来なんてない
痛みに任せて、レイヴンは言った。
ちゃんと言葉になっていたかどうか分からなかった。
もうここは際なんだ
僕は前にも後ろにも進めやしねぇ
ここが僕の最期なんだ
それきりシュバルツは黙ったままだった。
傷口を撫でながら、何か思案している様だった。
レイヴン、逃げることと受け流すことは違うんだ
シュバルツはそう言って傷口に口付けた。
レイヴンですら、触れない傷口だった。
過敏になっていたのは、あまりに触れていない所為だった。
あなたに近づいたのは間違いだった
レイヴンはそう、吐き捨てるように言った。
シュバルツがレイヴンを追い詰めたから、おそらくその言葉は彼の耳には届いていないだろう。レイヴンは唇を噛んだ。嬌声が漏れそうだった。
あなたは怖いくらいに真っ直ぐでストレートだ。
裸にしてるのは身体だけじゃないんだろ、心もだろ。
そんなに全て見せて、何がしたいんだよ。
僕をどうするつもりなんだよ。
身体が欲しいだけじゃないのかよ。なにが欲しいんだよ。
シュバルツの腕が膝の裏に手をかける。
熱い物が押し当てられて、声にならない声でやめてと懇願した。
お願いだからやめてくれ。
僕を迷わせないでくれ。
これ以上よくされたら、僕は、僕は…
「レイヴン」
名を呼ぶ声に目を開ける。
シュバルツは真っ直ぐにレイヴンを見つめていた。
「俺は君を、」
耳元に唇を寄せたシュバルツは、ゆっくり言葉を紡いだ。
言うな、
何も言うな、
言わないで、
出逢った誰もが言わなかった言葉を
こんなギリギリになって聞かせないで
あなたのそれは冗談じゃないんだろ、本気なんだろ
だったらやめて、どうか嘘だって言って
「君を愛してる」
レイヴンの耳に届いた言葉が、深く心に染み入った。
両手で顔を覆ったレイヴンは、声にならない嗚咽をあげた。
込み上げてくる感情を形容する言葉をレイヴンは知らなかった。ただ、引き結んだ唇から零れるしゃくりあげたような息遣いが、自分で止めることもままならなくて、どうしようもなかった。
運命が憎かった。
最後の最後で僕に一番残酷なものを押し付けてきた。
迷わせるのか、僕を。そうやってまた僕をこの世に縛りつけるのか。
シュバルツに傷口を撫でられて、気付いてしまった。
僕はこんなに、どうしようもないくらい愛に飢えてた。
愛したいし、それ以上に愛されたいと思ってた。
「……死にたい」
死んでしまいたい。
それはレイヴンの本当の言葉であり、
そんな彼に生きて欲しいと切に祈るシュバルツの胸には、どんな言葉より残酷に響いた。
-- end --
私の中の1部スバレイはこんな感じですね。愛されることとか誰かに大切にされることを知らなくて、恐がって、突っぱねちゃうんだけどそれごと抱きしめてしまう兄さん…*
大好きですヽ(´▽`)/